"あなたを愛してます。"




 あたしの一世一代の告白からずいぶんと時間が経った。
 なのになっちときたら全然返事をくれない。
 それどころか最近はなぜか自分の部屋に閉じこもってたりして……微妙に避けられてる感じ……。
 なっちぃ……そんなんだとあたしはまた笑えなくなっちゃうよ〜……。



  Little Eden 2  〜Flower Message〜



 今日の謁見が終わり、あたしは自分の部屋へと帰っていく。
 廊下を歩いていくけど、頭の中はなっちのことでいっぱい……。

 なっちぃ……どうして返事くれないんだよぉ……。
 まさかあたしが花言葉教えただけだと思ってる?
 いくら鈍感だってそんなことないよねぇ……。
 確かにお互いの立場とかいろいろと問題はあるけど……。
 だって仕方ないもん! だって好きなんだもん! ずーっとずーっと好きだったんだもん!

 そんなことを考えていると、廊下の向こうから今まさに想っていた人が歩いてきた。


「あっ、なっち!」
「ひ、姫!?」

 思わずなっちに駆けよる。
 するとなっちは慌てて踵を返した。
 でもなっちが駆け出すよりも一瞬早くなっちの手を掴む。

「なっち、待って! ごとーの話聞いてよ!」
「ひ、姫、すいません! 私はちょっと急ぎの用事が!」
「嘘っ! ホントはないんでしょ!!」
「ほ、本当です! これから書庫へ行って調べものをしなければならないのです! 失礼します!」
「あっ、なっち!!」
 なっちはあたしの手をふりほどくと、一目散に廊下を走っていってしまった。
 ていうかそっち書庫じゃないよ……遠回りだよ……。
 さすがにこうもあからさまに避けられると辛いよ……。


 そのあとなっちの部屋の前でずっと待ってたけど、結局夜になってもなっちは帰ってこなくって。
 仕方がないのであたしは自室に戻ってそのままベッドに潜り込んだ。
 明日早起きしてなっちの部屋を強襲してやる!
 そう固く決意して。


 翌朝。
「よしっ!」
 もっと寝ていたいのを我慢して、あたしはベッドから這い出た。
 あたしは朝弱いから、まさかなっちもこんな朝早くにあたしが押しかけてくるなんて思ってないだろう!
 ていうかなっちも同じくらい朝弱いからね。もしかしたらまだ寝てるかも。

 なっちの部屋の前までやってくる。昨日ずっと待ってた部屋の前。
 ドアノブを握ってそっとまわすと、以外にもあっさりと扉は開いた。
 いざとなったら扉をぶち破ろうかと考えていたあたしはいささか拍子抜け。
「なっち!」
 思い切って部屋の中に飛び込むけど、そこには誰もいなかった。

「え〜!? なっちどこ行ったのよ〜……?」
 もうだめだ……もしかして本格的に嫌われちゃった? それとも愛想尽かして出て行っちゃった?
 なっちに嫌われたらあたし……

 その時なっちの仕事机の上に一枚の紙がのってるのに気づいた。
 普段なっちはしっかりと机の上を整頓してるのに……。
 少しだけ零れた涙を拭きながら、その紙を手に取ると……




  秘密基地で待ってます。

                なつみ    』


 秘密基地……?
 考えるよりも早くあたしは行動を起こしていた。
 なっちの手紙を握りしめるとそのまま部屋を飛び出す。
 廊下を走り抜け、城の裏口から外へ出た。


 森に飛び込んでもあたしの足は止まらない。
 遊歩道を走り抜け、草のカーテンを突っ切り、木々のトンネルの中を駆け抜けた。
 自然が造ったトンネルの向こうに光が見える。
 トンネルの出口。そして秘密基地の入り口。
 あの光の向こうになっちがいる!

 光の中に突っこんだあたしを迎えてくれたのは、あたしが育てた花々の色彩と甘い香りだった。
 あたしは花園をぐるっと見渡す。
 そしてやっと見つけた。特徴的な黒い服と同じく黒い帽子を。

「なっち!」
 思わず叫んだ。なっちはビクッとしてこっちを向いた。
 もしかしてまた避けられる?
 一瞬そう思ったけど、なっちは笑顔を作ってあたしの方に歩いてきた。

「ビックリしたぁ、思ったよりも早かったね」
「うん……」
 なっちの顔は何かを決心したような顔だった。
 あたしは足がすくんだ。
 なっちはおそらく『返事』を用意しているだろう。
 あんなに欲しかったものなのに、いざ言われるとなると……
 不安になる……弱くなる……怖くなる……。

「ごっちん?」
「……んっ?」
「……はいっ」
「えっ?」
 なっちが服の下から取り出したのはたくさんの宝石を散りばめた、綺麗なティアラだった。
 差し出されて思わず受け取る。

「ごっちん、誕生日おめでとう」
「えっ? えっ!?……あっ……」
 言われてやっと思い出した。そう言えば今日、あたし誕生日だ……。


「ごっちん、自分の誕生日忘れてたんだべか?」
「う、うるさいな……」
 「アハハッ!」と笑うなっちを見てあたしは赤面するしかなかった。
 だって……なっちのことで頭いっぱいだったんだもん……。
 なっちはそっとあたしの頭にティアラをつけてくれた。

「ねぇ、なっち……もしかしてこれ手作り?」
「そうだよ。なっち不器用だから苦労したべ」
「だから最近部屋にこもってたの?」
「そ」
「なぁんだ……」
 避けられてたわけじゃなかったんだ……。ようやく一安心した……。



「……あとね、ごっちん。もう一つプレゼントあるんだ」
「えっ、なに?」
「はい、これ。さっきそこで摘んだんだ」
 再び差し出されたなっちの手には一輪の花が握られていた。
 それをそっと受け取る。
 薄い紫色した……たしかこれは「デージー」。

「ごっちん、花言葉、わかるよね?」
「えっ? 花言葉?」
 記憶を探る。
 デージーの花言葉。
 花言葉……
「あっ……」
 さっき我慢した涙がこぼれた。


「……"あなたと……同じ……気持ちです"……?」
「そう、正解。昨日いろいろ調べてさ、これが今のなっちの気持ちにピッタリだったから」
 なっちはそっとあたしを抱きしめてくれた。
 それでも涙は止まらない。

「なっち、大好きぃ……」
「なっちも、ごっちんのこと大好き。ゴメンね、今まで避けちゃって……。なんかちょっと、気まずくて……」
 「いいよ」と一言言いたいのに思うように言葉が出てこない。
 するとなっちの体が少し離れ、背中に回されていた手はあたしの頬に添えられた。

「これで……許して?」


 ふわっと唇に感じた感触で涙は止まった。
 なっちはあたしの目の前で真っ赤になっていて。
 あたしはもう一度なっちを抱きしめた。



 あたしが大事に育てた花は
 あたしたちの大切な想いを運んでくれました。

 そして子供の頃に作った秘密基地は
 あたしが少し大人になった日に最高の誕生日プレゼントをくれました。

 はじめよう……ここから、二人だけの小さなエデンから。
 二人で……一緒に……手をつないで……






あとがき

これまた姫。聖誕祭に出した姫。×執事短編。
「Little Eden」の続編です。
続編書こうか書くまいかけっこう悩んでたんですけど、「デージー」を見つけたことから一気に書きました。ストーリーにピッタリあったんで。
そしてギリギリ誕生日に間に合いました。正確には仕上げたのは3時間くらい食い込んでたけど……。
なぜかミキティネタが組み込まれてるのは気にしないで下さい!
しかし……キノコが一コマも出てきてない……。

( ´ Д `)<戻ろう!