今日は9月22日。明日はあたしの誕生日。
 そしてこれからあたしの17歳としての最後のテレビ出演が始まる。

 楽屋に入って台本を覚える。
 うわぁ、一番最初かぁ……緊張するなぁ……。
 そんなふうに楽屋で時間をつぶしていると急に楽屋のドアが開いた。

「ごっち〜ん!!」
 何事かとふり返る前に身体全体に衝撃がかかる。
 ……こんなことをするのはアイツしかいない。
「な、何? まっつー」
 あたしの体にしがみついてる物体を引き剥がしてみると、それは予想通り、今日の共演者の中の1人で、仕事仲間でもあるまっつーこと松浦亜弥だった。



  暴走 バースディ・イブ



「1人で退屈だから遊びに来ちゃった〜!」
「退屈って……やることないなら台本覚えなよ」
「もうバッチリ覚えたよ〜! 完璧ですっ!」
「それじゃ紺野でしょ……」


 最近やけにまっつーに懐かれた気がする。
 それはたぶんごまっとうで一緒に活動して仲良くなったってのもあるし、まっつーの一番の親友だったミキティがモーニング娘。に加入してからあまり一緒にいられなくなったってこともあるだろう。
 となるとやっぱりハロプロ内のソロで年も近いあたしが次のターゲットとなったわけか……。

「ねぇ、ごっちん! 松浦のど乾いちゃったからさぁ、一緒にジュースでも買いに行こうよ〜!!」
「まっつー1人で行ってよ! ごとーは今台本覚えてるんだから」
「えー、いいじゃんいいじゃん! 行こうよ〜!!」
「だからごとーは台本を!」
 …………


「ねぇ、ごっちん、これおいしーよ!」
「えっ? どれ? ちょっとちょうだい」
「いいよぉ! ハイ!」
「……あっ、ホントに美味しい」
「ごっちんのもちょっとちょうだいよぉ」
「んっ、いいよ」

 ……って! 何であたしは自販機の前でまっつーと一緒にのほほんとジュースを飲んでるんだ!?
 いつの間にか完全にまっつーのペースにはまってしまった……。
 ヤバイ、楽屋からここに来てジュースを買って、そこから今までの記憶が曖昧だぞ……。

「違う! こんなことしてる場合じゃなくてごとーは台本を覚えなきゃ!」
「えっ? でももう少しでリハーサル始まるよ。そろそろ行かなきゃ」
 ……なんですと?
 腕時計を見てみると確かにリハーサル開始の10分前を指していた。
 念のため携帯をとりだして、液晶画面を見てみるけど携帯の時計もしっかりと同じ時間を表示していて腕時計が壊れたわけではないということ。

「ホラ、早く行こう!」
 空き缶をゴミ箱に投げ入れると、あたしの手を取ってさっさと歩き出すまっつー。
 スキップでもし始めるんじゃないか、と思えるくらい陽気なまっつーとは対照的に、あたしは少しぐったりしながら会場へと向かった。


 その後、なんとかうろ覚えでリハーサルを終え、本番までの空き時間で台本を覚え直して、本番は完璧に乗りきり、午後9時で仕事は終了した。
 今日まであたしは17歳なので9時以降は仕事ができない。
 最後の最後まで17歳を体感するなんてね。

「おつかれ〜、ごっちん!」
 廊下を楽屋に向かって歩いていると後ろから声をかけられた。
 あたしと同じ17歳で9時以降は仕事ができないもう1人のソロ出演者。
「おつかれ、まっつー」
 ピョンピョンとあたしの横に並んであたしに腕を絡めてくるまっつー。
 特に嫌な気もしないのでそのままつないで歩き続ける。


「じゃあ、ごとーここだから」
 しばらくしてあたしの楽屋の前についた。
 腕を離して中に入ろうとしたけど、なぜかまっつーは離してくれない。

「な、なに?」
「ごっちん、これから時間あるかな?」
「いや、明日福岡に行かなきゃならないから早く帰りたいんだけど……」
「ちょっと早いけどこれからごっちんの18歳誕生パーティーしようよ!」
「い、今から?」
「うん、2人で」

 あたしとしては即断りたかった。明日ライブだって言ったじゃんか……。
 でもちょっと考えてみると、明日以降はあたしもテレビに最後まで出れるようになって、まっつーとは一緒に行動しづらくなっちゃうんだ……。
 ミキティだってもう18歳。今日も最後まで出ている。
 最後くらいはつきあってあげてもいいかな?

「わかった、じゃあ……しよっか?」
「ホント? ホントにOK?」
「うん、つきあってあげる」
「やったー! じゃあ着替えてから迎えに来るから待っててね!」
 まっつーはガッツポーズを1つすると廊下を走っていってしまった。
 まっつーは相変わらず元気だなぁ、と思いながらあたしも楽屋に入った。


 私服に着替えて待っていると、しばらくして楽屋の扉がガンッガンッと叩かれた。
 今回はちゃんとノックしやがったか、と思いつつ扉を開けると、間髪入れずまっつーがあたしに飛びついてくる。

「お待たせ〜、ごっちん行こ〜!!」
「い、行く! 行くから離して! 苦しいから!!」
 なんとかまっつーを剥がして楽屋を出る。
 そしてそのままテレビ局をあとにした。
 タクシーに乗り込むと、まっつーは運転手さんに1つの住所を告げた。どこに連れてってくれるんだろう?


「はぁ、これからはごっちんもテレビ最後まで出れるようになっちゃうのか……」
 タクシーに乗ってしばらく走っていると、となりでまっつーが呟いた。
「なんだよ、誕生日祝ってくれるんじゃなかったの?」
「そぉだけどぉ……先に帰るの松浦だけになっちゃうなぁ、って」
「でももっと小さい子もいるじゃん?」
「そぉなんだけどね……あ〜あ、松浦はあと1年かぁ……長いなぁ……」
「まっつーも最後まで出たいの?」
「ん〜、ちょっと違う」
「じゃあ何?」
「ヒ・ミ・ツ!」
「なんだよぉ」


 しばらくまっつーと話していると急にタクシーが止まった。
 「着きましたよ」という運転手さんの言葉と同時に車のドアが開く。
 降りてみるとそこは1つのマンションの前だった。

「えっ? まっつー、ここなの?」
「そう、ここ!」
「ここって……」
「松浦んチ!」
「え゛っ!?」

 まだ状況を理解しきれてないあたしの腕をまっつーはぐいぐいと引っぱっていく。
 そういやまっつーの家に来たの初めてだなぁ、なんてあたしは混乱した頭でのんきなことを考えていた。


「どぉぞぉ!」
「おじゃましまーす……」
 もはやどうにでもなれ! と少しヤケになりながらまっつーの家に入り込む。
 まっつーの案内でリビングに通された。

「ちょっとまっててねぇ〜」
 そういうとまっつーはリビングから出て行った。
 あたしはちょっとリビングを見渡してみる。
 やけにピンクの小物と鏡が目立つまっつーの空間。
 ……なぁんか予想通りだなぁ。


「ハッピー・バースディ!! ごっちん!!」
 しばらくしてまっつーが戻ってきた。しかもその手に特大のバースディケーキを持って。
 まっつーはケーキをテーブルの上に置いてあたしのとなりに腰掛けた。
「ぇえっ? これどうしたの?」
「昨日つくっといたの! なかなかうまくできてるでしょ?」
「……用意周到だね……」
 こんなところから彼女の計画性の高さがうかがい知れる。
 今日は最初っからあたしを拉致する気満々だったな、この娘……。

「さぁ、お祝いしよぉ〜!!」
 まっつーはチャッカマンを取り出すと、ろうそくに火をつけて部屋の明かりを消した。
 暗闇の中、ろうそくの炎に照らされて、まっつーの微笑んだ顔とバースディケーキが浮かび上がる。
 まぁ、いいや。ここは一つ一番最初にまっつーに18歳を祝ってもらおうじゃないか。

「さぁごっちん! 消して消して!」
「うん」
 ろうそくの炎めがけて息を吹く。
 ろうそくの炎が1つ1つ消えていき、最後の1本が消えると辺りに暗闇が訪れた。
「おめでと〜、ごっちん!!」
 パチパチパチと言う拍手の中、部屋に明かりが戻ってくる。
 そしてあたしの目には満面の笑顔で拍手をしているまっつーが映し出された。

「ケーキ食べよっか?」
「うん、そうだね」


 そのあとはまっつーと一緒にケーキを食べたりテレビを見たりして楽しんでいた。
 あたしはまた完全にまっつーのペースに飲まれていて。
 気がついたときには11時を余裕でまわっていた。
 余裕で……

「って、えー!? もうこんな時間!?」
 ヤバイ! 明日は朝早くから福岡に行かなきゃいけないのに!
 慌てて帰ろうとしたけど、それはまっつーに腕を掴まれたことによって止められた。

「な、なにっ!?」
「泊まってけば?」
「……はっ?」
「だから、今日泊まってけば?」

「……どこに?」
「ここに」
「…………誰が?」
「ごっちんが」
「いや、悪いし、それに……」
「大丈夫だよ! ちゃんと明日起こしてあげるし、お布団だって用意してあるし」
「・・・・・・」

 押し入れから布団を引きずり出してきたまっつーを見てあたしは言葉を失う。
 これはもう用意周到というより確信犯と言った方がいいんじゃないのか?
 この状態のまっつーは何を言っても聞かないため、あたしも観念して家に「明日迎えに来て」と電話をする。

「はぁ……じゃあ今晩はお世話になります……」
「うん! 別にいいよ、今晩だけじゃなくていっつもでも」
「それは謹んでご遠慮します」


 あたしは溜め息をついてまっつーが用意してくれた布団に潜り込んだ。
 明日は早起きだし、ライブもあるのでさっさと寝て体力を蓄えておきたい。
 幸い番組出演のためのほどよい疲れからかすぐにまぶたが下がってくる。
 これならすぐにでも寝れそうだ。
 なのに……

「あー! ダメー、ごっちん! 寝ちゃだめぇー!!」
 キイィィーン!
 耳元で叫ばれた大声で眠気は一気にふっとんだ。
 なんだよぉ……起こしてはくれるのに寝かせてはくれないわけ?

「まっつー……ごとー明日ライブだからさっさと寝たいんだけど……」
「でもダメなのー! もう少しだから起きてて!!」
「もう少しって、何が?」
「いいから!」

 絶え間なく襲ってくる眠気に負けそうになってもすぐにまっつーに叩き起こされる。
 まっつーは布団に入ってるあたしの上に乗っかって、あたしの顔と携帯電話を交互に睨んでいる。
 つーか眠い……お願いだから寝かせてぇ……

 そしてあたしが何度目かもわからない、まぶたが下がってきてうとうとし始めた頃……
「よし、なった!! ごっちん!!」
 肩を揺さぶられて再びあたしは覚醒させられた。

「な、なに、まっつー?」
「誕生日おめでと〜!」
「……えっ?」
「ホラ、12時!」
 まっつーが示した携帯のディスプレイには「9月23日(火) 0:00」と表示されていた。
 そっか日付変わったんだ。あたし18歳になったのか。

「フフフ、いっちばん最初にごっちんに言いたかったんだぁ!」
「……そっか、ありがとうね」
 お礼を言ったとたん、再び睡魔が襲ってきた。

「じゃあまっつー、もう寝ていい……?」
「あっ、まだダメ! 誕生日プレゼントがあるのにぃ!」
「ゴメン……限界……」
「いいよ、今すぐ渡すから」
 まっつーの好意を無駄にはしたくなかったけど、もうすでにあたしのまぶたは下がり始めていた。

 閉じられていく視界の中、まっつーの顔が大きくなっていって……
 唇に何か触れた気がしたけど、すぐあとにあたしは夢の世界へ連れ去られてしまった。


 翌朝。まっつーは宣言通りにあたしを起こしてくれて。
 あたしは眠い目をこすりながら準備を整えて、今はマンションの前でウチの車を待っている。

「そういやまっつー、昨日誕生日プレゼントがどうとか言ってたけどなんだったの?」
「ん? 誕生日プレゼントならもうあげたよ〜?」
「えっ? ごとーもらってないよ? なに?」
「松浦の〜、ハ ジ メ テ! キャッ♡」
「はぁっ?」
「あっ、ごっちん車! あれじゃないの?」
 目の前を一台の見慣れた車が通りすぎ、少ししてから路肩に停車した。
 あたしは地面に置いていた荷物を持ち上げる。


「それじゃ、行ってらっしゃい、ごっちん! 頑張ってね!!」

 まっつーは笑顔で手をふって送ってくれた。
 それはなんだかライブの成功を祈るというよりはあたしの18歳の門出を祝ってくれてるみたい。
 考えてみればこんなふうに家族以外の人に見送られるのって初めてかも。けっこう嬉しいもんだなぁ。
 あたしもふり返ってまっつーに手を振る。



「行ってくるね、まっつー!!」






あとがき

ごっちん誕生日おめでと〜!(遅っっっ!!!
で、書いてみたのはあやごまです! やっぱり私が書くとあややは暴走します!
こ〜ゆ〜キャラなのか? いや、私がこ〜ゆ〜認識なんだな……。
でもなんだかんだ言ってあややは書いてて楽しいです。あやや1人称だとメチャクチャ難しいですが、他の視点だと実に動かしがいがあります。
ていうかなにげにあやごまって最強カプのような……

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