「ポンちゃ〜ん……」
明かりの落ちた部屋の中、隣で眠るポンちゃんの背中にすり寄る。
そっと手を前にまわし、うなじに唇を這わせるけど……
「んっ! だ、ダメッ!!」
「え〜……」
ポンちゃんはバッとあたしから離れた。
腕の中から消えたぬくもりが何とも名残惜しい。
「まだダメなんですか、ポンちゃ〜ん……」
「ま、まだ、その……心と体の準備が……」
「う〜……」
「ごめんね、れいな」
こっちを向いたポンちゃんがまた触れられる距離まで戻ってくる。
そっとポンちゃんの手があたしの髪に入り込むと、そのまま唇が重なった。
「……キスはいいのに……」
「うっ……でもほら、明日も早いし……」
「う〜……」
うなるあたしをポンちゃんは優しく抱きしめる。
そんなことされるとよけいにちょっとヤバい……。
あたしはすでに心も体も準備OKなわけで……。
ついでにいうとテクニックも後藤さんの教材を用いた講習でそれなりにレベルは上がってるはず。
ま、さすがに途中までだけどね。そのあとあたしは追い出されたけど……。
後藤さん曰く、「あとは本能でヤれ!」だって……。
はぁ……どうやら今日もお預けなようで……
いつになったらもっと先へ進めるんだろう……?
First Night
「はぁ……」
「ん〜? どした、れいな?」
撮影の間の空き時間、あたしは勝手に師匠とあがめている後藤さんの楽屋に転がり込んだ。
後藤さんは私の向かい側のソファに寝ころんで台本を読んでいる。
「紺野とケンカでもしたの〜?」
「いや、そうじゃないんですけど……恋愛ってなかなか思ったように進まないなぁ、って……」
告白して付き合い始めたのがポンちゃんの誕生日だから……
思えばもう半年以上付き合ってるんよね?
それでもキス以上の関係に進めないって……これが人並みなのか、それとも遅いのか……。
「あの〜、後藤さん……」
「ん〜?」
「つかぬ事をお聞きしますが……後藤さんは、その……初めて藤本さんとしたときってどうやって……?」
やっぱり人の体験談ってのはちょっと気になるもので……
ためになるかなぁ、と思って後藤さんに聞いてみたんだけど……。
「ふつーにミキティに襲いかかった」
「・・・・・・」
いや、全然ふつーじゃないと思うんですけど……。
「れいなも紺野に襲いかかってみれば?」
「いや、無理ですよ! ポンちゃん空手経験者ですよ?」
カウンターくらうのは目に見えてる。
ていうかそれでなんとかなるならこんなに苦労してないし……。
「えー、でも嫌がるのを強引にするのもけっこう楽しいよ? 口では「イヤ」って言っててもカラダはちゃんと……」
……苦労してんだなぁ、藤本さん……。
☆
散々中学生の教育には悪影響な話をしたあと、後藤さんはようやく本題に戻った。
台本を読むのを止め、あたしの隣に移動してきて、真剣に話を聞いてくれてる。
「つまりれいなはせっかくごとーがミキティ使ってテクニックを伝授してあげたのに、まだそれを発揮することができないと?」
「ま、そういうことです……」
「う〜ん、つまりはどうすればそこまでもっていけるかってことか……」
後藤さんは天を仰いで、どうやら真剣に考えているようで。
あたしはそんな後藤さんをただじっと見つめる。
でも後藤さんはなにかを思いついたようで、フッと視線をあたしの方に向けた。
「れいな、さすがにもうキスは済ませたよね?」
「はぁ、それはもう」
「紺野もキスには抵抗なさそう?」
「最近ではポンちゃんからしてくれることもありますよ?」
「ふ〜ん」
後藤さんは満足したようにニヤッと笑った。
なんとなくイヤな予感がしたけど、たぶん気のせい……気のせい……。
「じゃあ簡単だ。ようはれいなが"その気にさせるキス"を覚えればいいんだよ!」
「その気にさせるキス?」
思わずオウム返し。
その気にさせるキスって……そんなのあるの?
「そう! そうすりゃもうあとは流れで最後までいけるって!」
「どうすればいいんですか?」
「え〜と……言葉で説明するのは難しいかなぁ?」
「え゛っ!?」
それは一瞬のことだった。
あたしは後藤さんにソファの上に押し倒され、押さえつけられた。
「なっ!? ちょっと、後藤さん!?」
「あはっ! 経験はどんな知識にも勝るって言うし!」
「ええっ!?……んっ!」
そしてあっという間に唇を塞がれた。
瞳も閉じることができないほど、完全に身体が硬直する。
当たり前だけど、ポンちゃんの唇とはちょっと違うなぁ……なんて、
頭はそんなことを他人事のように考えていたんだけど……
「んっ?……んんっ!?」
急に口の中になにかが侵入してきて、一瞬でパニックになる。
えっ!? な、なにこれぇ!?
それはあたしの口内を這い回ったあと、あたしの舌を見つけて絡みついてくる。
これってもしかして、後藤さんの舌……?
「んっ……ぁ…はぁ……」
ヤバイ……ちょっと、気持ちいい……。
身体は力が抜けて後藤さんにされるがままになってるし……。
頭はボーっとして、なにも考えられない状態になっていた。
結局あたしは後藤さんが唇を離してくれるまで、そのまんまで……。
「あはっ! ごちそうさま、れいな! さすがにこれ以上やっちゃうと紺野やミキティに怒られちゃうからねぇ!」
でも後藤さんが離れてくれても、あたしはそのままソファに横になったまま。
なんか全然身体に力が入らない……。
「あらら、ちょっとれいなには刺激が強すぎたかな?」
そんなことを言いながら、後藤さんがあたしを抱き起こしてくれた。
「ミキティにはヒミツだよ?」
「言ったられいなが殺されます……」
「あはっ! ま、ちょっと早いけど、ごとーからの誕生日プレゼントってことで!」
「えっ?」
「もう少しでしょ、誕生日?」
あっ、そういえばそうだ。
最近忙しくてすっかり忘れてたけど……
もう少しで、あたし、誕生日なんだ……。
☆
キーンコーンカーンコーン……
放課のチャイムが学校中に鳴り響く。
それと同時にあたしは開いてすらなかった教科書とノートをバッグの中に押し込み、一目散に教室から飛び出た。
今日は11月11日。あたしの誕生日。
そんな日にポンちゃんからのお呼び出しがあったりしたら、もうホームルームなんか受けてられなくて。
「ポンちゃ〜ん!!」
あたしにしてはめずらしくどこにも寄り道せずに、真っ直ぐポンちゃんの家へと駆け込んだ。
「わ、すごい早いねぇ〜」
「そりゃあもう1秒でも早くポンちゃんに会いたかったですから!」
出迎えてくれたポンちゃんはピンクのエプロン姿でどうやら料理中だったみたい。
あたしはポンちゃんのあとについて、ポンちゃんチにお邪魔する。
うあ〜、いつ見てもポンちゃんのエプロン姿かわいか〜! あたし的には料理じゃなくてポンちゃんを食べたい!
「あっ、じゃあ改めまして。れいな、誕生日おめでとう!」
「ありがとうございます!」
「といってもまだなにもできてないからちょっと待ってて」
「はーい!」
ポンちゃんが料理しているあいだ、あたしはリビングでぐた〜っとくつろぐ。
適当にテレビをつけてみたんだけど、やっぱりポンちゃんが気になって。
ちらちらとキッチンのほうをふり向くと、ポンちゃんはコンロの前でパタパタとせわしなく動いていた。
かわいか〜!!
あぁ、もう! 早く夜にならないかなぁ!!
☆
「できたよ、れいな〜!」
「は〜い!」
ポンちゃんに呼ばれてあたしはダイニングへと移動する。
お〜! 肉サラダや〜! あたしの大好物!
「いただきま〜す!」
「いただきます」
二人で手を合わせ、さっそくあたしは肉をパクつく。
おいし〜! もう本当に幸せな誕生日!
「美味しいですよ、ポンちゃん!」
「本当? 嬉しいなぁ! あっ、でもちゃんと野菜も食べなきゃダメだよ?」
「え〜……?」
「もう! ほら、あ〜ん!」
わっ! そんなことされたら食べるしかないじゃん!
まぁ別に野菜大嫌いってほどでもないし。
あたしはポンちゃんが差し出したお箸にかぶりつく。
「あっ! じゃあ今度はれいなが食べさせてあげると!」
「えっ? いいよぉ、恥ずかしいし……」
「だ〜め! ほら、あ〜ん!!」
「うぅ……」
ポンちゃんは恥ずかしがりながらも、小さく口を開けてあたしの差し出した肉サラダを口に入れた。
☆
「あ〜、もぅ満腹〜!」
ポンちゃんのつくってくれた肉サラダをキレイに平らげたあと、これまたポンちゃんが作ってくれたケーキまでご馳走になって、さすがのあたしもお腹いっぱい。
ぐて〜っとリビングのソファに寝ころぶ。
「れいな、食べたあとですぐに寝ると牛になるよ?」
「わっ! それはヤダ、食べられちゃう!」
食べるのは好きだけど、食べられるのはイヤだ!
あたしはガバッと跳ね起きる。
「あっ、でもポンちゃんになら食べられてもよかと!」
「わっ!」
でもポンちゃんが隣に座ってきたので、あたしはそのままポンちゃんに抱きつく。
ゴロゴロと甘えると、ポンちゃんはちょっと困ってたけど、優しく頭を撫でてくれて。
「ねぇ、れいな」
「んっ?」
「はい、誕生日プレゼント」
顔を上げるとポンちゃんはいつから持っていたのか、キレイにラッピングされた包みを持っていた。
「わ〜、ありがとうございます! 開けてよかですか?」
「うん」
期待に胸を弾ませながら開けてみると、そこに入っていたのは……
「あっ、これれいなが欲しがってたワンピース!」
前にデートしたときにあたしがずーっと見てたワンピース。
ポンちゃん、覚えててくれたんだ!
「ありがとうございます〜! 次のデートの時に着てきますね!!」
「うん! れいなならきっと似合うと思うよ!」
ホントは今すぐ着てみたかったんだけど、ちょっと、シワつけちゃったらまずいしね。
もうけっこう夜も深まってきたことだし……。
フフフ、お腹はいっぱいだけど、ポンちゃんは別腹さ!
「ポンちゃ〜ん!」
「わっ!」
邪な考えは笑顔で隠してポンちゃんにじゃれつく。
「れいな、もう一つプレゼントが欲しいです〜!」
「えっ? な、なにかな?」
「ちゅ〜!」
「あっ、キスね。もう、れいなは……」
そんなことを言いつつもポンちゃんはあたしの頬に手を添えて、そっと顔を近づけてくる。
あたしは心の中だけでニヤッと笑う。
「れいな、誕生日おめでとう……」
吐息が頬を撫でると同時に、唇が重なった。
あたしも腕をポンちゃんの首にまわし、強く抱きしめる。
さぁ〜て、ポンちゃんを落とすぞ〜!!
そう気合いを入れてみたけれど……
あれっ? こういうのってさっさと入れちゃったほうがいいのかな? それともちょっと待ってるべき?
ど、どうしよう……?
とりあえずは少し待ってからにしようと決めたその時だった。
「……んっ!?」
数日前に後藤さんにされたときと同じように、あたしは身体が飛び跳ねそうになるほど驚いた。
あたしの反応が同じなら、されたことも同じで。
あたしの口内に舌が侵入してきた。
「えっ!?……んっ!」
また軽くパニックに陥るあたし。
まさかこんな展開はまったく予期してなくて、あたしはどうしていいかわからなくて。
固まっているうちに、そっと唇が離れた。
「ポ、ポンちゃ……」
唇を離すと、ポンちゃんはすぐに私に抱きついてきて。
顔をギューッとあたしの胸元に押しつけてるから表情はわからないけど、見えるところは余すところなく真っ赤。
これってもしかして……「オッケィ」ってことですか……?
「ぁ、あの……ポンちゃん?」
「れいな……」
やっと顔を上げたポンちゃんは、顔中真っ赤で、大きな瞳は潤んでて……
「その……いいんですか?」
「……うん……」
ポンちゃんはいつも以上に小さな声だったけど、しっかりと返事をくれた。
あたしはまたそっと唇を重ねる。
「じゃあ……お風呂入りましょうか?」
「……一緒に?」
「できれば」
「……わかった」
二人でソファから立ち上がり、手を繋いでお風呂場に向かう。
あたしが15歳になって初めての夜は、まだまだ長くなりそう……。
あとがき
れいな誕生日おめでと〜!!
まだ15歳ですか〜! 若いですねぇ!
というわけで生誕記念のれなこんです。
もうなにもかもが、ヤッちゃった! って感じです(苦笑
ま、でもこれでもうどんなれなこんでも書けますね!(マテ
しかしなんかごっちんがヘンタイっぽくなってる気が……。