「さてと、それじゃあ始めようか、田中?」
「は、はい、よろしくおねがいします、後藤さん!」

 今日はGW最後の日、5月5日。
 あたしたちモーニング娘。は久々に長めのオフをもらえたので、今頃みんなそのオフを満喫しているところなんだろうけど、そんな中、あたしは後藤さんの家にお邪魔していた。

「それじゃあまずはキャベツの千切りからやってみようか?」
「はいぃ!?」
「まずはごとーがお手本見せるから!」

 まな板の上にキャベツがドンッと置かれる。
 それを後藤さんの名前入りマイ包丁が軽快なリズムと共に刻んでいく。
 キャベツはすぐに細長い千切り状になった。


「じゃあやってみて?」
「は、はいっ!」

 かしてもらった包丁でキャベツの千切りに挑む。
 ザクッザクッと鈍い音が響く。
 これじゃ千切りじゃなくてぶつ切りだ……。

「んもー、違うよ、田中! 包丁はもうちょっと刃の近くを持たないと! あと左手は指を曲げて猫の手みたいにしないと危ないよ?」
「あっ、はいっ!!」

 いつの間にか後藤さんはあたしの背後にまわっていて、手だけを前にまわしていろいろと指導してくれる。
 まるで後ろから抱きしめられてるような格好になり、ちょっとドキッとしたけど、その瞬間……

「た〜な〜か〜……」

 キッチンの隅から低い声が聞こえてくる。
 恐る恐るそっちを見ると、藤本さんがあたしのほうを睨んでいた。
 完全に「素」の顔。ちょっと……本気で怖いんですけど……。


「あはっ、ミキティー! なに、ヤキモチ妬いてるの〜?」
「べ、別にそういうわけじゃなくて……」

 後藤さんはすぐにあたしから離れ、藤本さんのもとへ駆けよると、ダークになりかけた空気は一瞬でラブラブな雰囲気に変わる。
 どっちにしろ居心地良いものではないなぁ、と思いながらあたしはキャベツの千切りを続けた。



 なぜあたしが後藤さんに料理を教えてもらっているか。

 それは2日前にさかのぼる。



  For You



 忙しかったモーニング娘。の春のツアーも昨日ようやくファイナルを迎えた。
 ミカさんの卒業は少し淋しいけど、あたしたちは淋しんでる暇もなく、今日も仕事。
 でも明日からは少し長めのお休みをもらえる。


「おつかれさまでした〜!」

 そして休み前の最後の仕事が無事に終わった。
 伸びをしながら楽屋へと戻ってくる。

「おやすみだねぇ〜、れーな〜!」
「あぁ、絵里。そうだねぇ、ゆっくり寝てられるけん」
「14才のセリフじゃないよ、れいな?」

 絵里とさゆと喋りながら私服に着替える。
 そのうち話は休み中の予定の話に。

「せっかく休みなんだからどっか遊びに行こうよ、れーな〜!」
「あっ、私も行く〜!」
「あ〜、7日以外ならよかよ」
「あれっ? 7日はもう予定あるの?」
「うん、ちょっと大事な用事が……」

 そんなとき、紺野さんが高橋さんたちと一緒に楽屋に戻ってきた。
 どうやらあたしたちと同じように休み中の予定について話してたようなので、目はそのままにして、耳だけ傾ける。

「ねぇ、あさ美ちゃ〜ん、やっぱりダメやの?」
「ごめんね……7日はもう約束があって……」
「せっかく休みなんやからあさ美ちゃんの誕生パーティー開いてあげようと思ったのにぃ!」
「ごめん……じゃあ8日にしよう! それなら大丈夫だから!」
「う〜ん、しょうがないなぁ」

 それを聞いてホッと胸をなで下ろす。
 改めて絵里とさゆの方に向き直ると、二人の目が輝いていた。

「れーな〜!」
「れいな〜!!」
「な、なんね?」

 輝いていた目が今はニヤニヤと笑っている。
 くっ、ばれたか。そこまで鈍感ではないみたい。

「よく紺野さんの誕生日抑えられたねぇ〜?」
「んっ、まぁね」

 突き詰めればこの二人のおかげになるんだけど、調子に乗るだけだから死んでも言ってやんない。

「なるほどねぇ〜、それで私たちに調べさせたんだぁ〜!」
「ま、そういうことやね」
「それで、初でーとはどこ行くの〜?」
「もしかして、ホ……」

 全部言い切る前に絵里の顔面に右ストレートを叩き込む。
 絵里は顔を押さえながら「最近ツッコミが非道くなってるよ〜……」などと泣き言を漏らしていたが、そうでもしないと効かなくなった絵里が全面的に悪い!

「でもさぁ、ほんとにどこ行くの?」
「別に……。れいなのウチに呼ぶだけとよ……」

 痛がってる絵里をよそに、さゆが興味津々という感じで聞いてくる。
 あたしも気が進まないけど渋々答える。

「えーっ!? せっかくのデートなんだからどっか行けばいいのに!」
「れいなだって行きたかったとよ! でも、学校が……」
「サボればいいじゃん!」
「そんなの紺野さんが許してくれるわけなか」

 事実紺野さんにサボると言ったら「そんなことダメだよ!」と怒られた。
 どこかに二人で遊びに行って、一緒にご飯を食べて……などなど、考えていたプランは変更を余儀なくされて……。
 だからとりあえずはあたしのウチに紺野さんを呼んだんだけど……

「それでれいなの家でなにするの?」
「うっ……それはやっぱり紺野さんの誕生パーティーを……」
「料理とかはどうするの?」
「うぅっ……」

 そう……そこには唯一にして最大の問題が待っていた……。


「……さゆ……」
「えー、無理だよー! 私も料理とかしないし」
「……絵里……」
「絵里もしな〜い」

 だろうね……。
 ついでにこいつらに頼ったらお返しになにさせられるかわからない。
 他に誰か頼りになる人はいないかと楽屋内を見渡してみる。と……

「んっ? どうしたの、田中ちゃん? 妙にキョドっちゃって?」
「あっ、藤本さん」

 藤本さんとばっちり目があった。
 そのままで少し考える。
 藤本さんか……でも料理するタイプには見えなかね……。

「いえ、なんでもないです」
「あっ! ちょっと待てっ!!」

 さっさと次のターゲットを探そうとしたけど、藤本さんに取り押さえられた。

「なによ〜! またミキだけ仲間外れにして〜!!」
「いや、仲間外れって……」
「どうしたの〜? ほらほら、ミキねぇに相談してみなさい?」
「な、なんですか、『ミキねぇ』っていうのは……」

 藤本さんの目は絵里やさゆと同じように好奇心いっぱいの目をしていて。
 だからあんまり話したくなかったんだけど、でも……絵里やさゆよりは力になってくれるかもしれないな。

 結局あたしは藤本さんを頼ってみることにした。

「実は……」


 で、最終的にあたしは藤本さん経由で後藤さんに料理を教えてもらえることになった。
 ただし藤本さんの監視付きが条件で。
 いや、あたしは紺野さん一筋だから後藤さんに手を出したりなんかしませんよ!
 ていうかまさか後藤さんと藤本さんが付き合ってたなんて……。
 全然気づかなかったとよ……。

 そしてあたしは今日後藤さんチにお邪魔している。
 ちなみに昨日は二人とも都合が悪かったらしい。(だから絵里とさゆと遊んだ)
 でも、今日けっこう早い時間から来たのに、すでに後藤さんチに(眠そうな顔した)藤本さんがいたってことは……
 ……まぁ、あたしはまだ知らない大人の事情があるとね……。


「も〜、ミキティはおとなしく座って待ってて! 腰痛いんでしょう?」
「痛くした張本人がなにを言うか……」
「え〜? だってそれはミキティが……」
「わーっ!! それ以上は言っちゃダメッ! 田中ちゃんがいるんだから!!」

 聞こえな〜い、聞こえな〜い。
 あたしは多少赤面しつつ、キャベツの千切りを続けていく。
 コツを掴むとけっこう簡単で、おもしろいように細く切れてく。


「お〜、なかなか上手いもんじゃん!」
「あっ、後藤さん」
「それじゃあそろそろ本格的に教えてあげるよ! なにを作りたいの?」
「えっと……カボチャのコロッケにしようかと思うんですけど……」
「あはっ! 紺野カボチャ好きだもんねぇ! おっけー!!」
「よろしくお願いします、後藤さん!」


 そのあとあたしは後藤さんに教えてもらい、なんとか料理をこなしていった。
 背中に藤本さんの視線が終始突き刺さっていたけど、極力気にせずに、時間はかかったけど形にはなった。

「できました〜!!」
「お〜! 初めてにしては上出来じゃん!」

 揚げ上がったコロッケをお皿に盛りつける。

「じゃあ味はどうかな?」
「あっ!」

 手に持ったお皿のなかから、後藤さんがコロッケを一口サイズに切って取り上げる。
 フゥーフゥーと少し冷ましてから口に入れた。
 急にドキドキしてくる。
 はたして上手く作れたんだろうか?

 後藤さんは最初は無表情で口を動かしていたけど、飲み込むと笑顔に変わった。

「うんっ! いけるよ!」
「ほ、ほんとですかっ!?」
「ホントホント! 食べてみな?」

 あたしも自分で作ったコロッケを一口食べてみる。
 んっ! けっこう上手くできてるかも。

「明後日もがんばんなよ? 応援してるからさ!」
「はいっ!」


 そのあとはせっかく作ったので、三人でコロッケを食べて。
 あたしは後藤さんから手書きのレシピを頂いて、後藤さんの家をあとにした。
 まぁ、あんまりあの二人の邪魔をしても悪いしね。

 途中で材料を買っていく。
 明日は学校だし。それにもうちょっと練習したい。


 そう、紺野さんに美味しい料理を出して……
 プレゼントを渡して……
 そして……

 あたしの想いを伝えるんだ!!


 そして運命の5月7日。紺野さんの誕生日。
 あたしは放課のチャイムが鳴ると、すぐに学校を飛び出した。
 そのままマッハな速度で家まで帰る。確実に最高新記録だ。

 家に着くとすぐに料理を開始する。
 後藤さんのレシピを広げ、エプロンをつけ、材料を取り出す。
 後藤さんに教えてもらったあと、家でも自分だけで一回作り、昨日だってもう一度作ってみた。
 さすがに食べ飽きたけど、おかげでけっこう料理に慣れてきた。
 包丁捌きもけっこう様になっている。


 カボチャを切り、鍋で煮る。
 柔らかく煮上がったカボチャを潰していると、急に家のチャイムが鳴った。
 慌てて時計を見る。
 えっ? 紺野さんが来るにはまだ約束の時間よりかなり早いんですけど……?

「はい、どちら様ですか?」
「お届け物で〜す!」

 なんだろう?
 首を傾げながら玄関を開ける。
 と、そこにいたのは……

「よ、田中ちゃん!」
「しっかりできてる?」
「ご、後藤さん!? 藤本さん!?」

 そこにいたのは後藤さんと藤本さんだった。


「どうしたんですか、今日は?」
「ん〜、田中ちゃんがちゃんとできてるか気になってさ。今日本番でしょ?」
「はいっ! 後藤さんのおかげで順調です!」
「そっか、よかった〜! あっ、あとこれ! お届け物!」
「えっ?」

 後藤さんが差し出した箱を反射的に受け取る。
 キレイにラッピングされた箱。
 これって……もしかして……

「バースディケーキ作ったんだよ〜! さすがにケーキまでは作ってる暇ないだろうからさ! 紺野と一緒に食べて!」
「あっ、ありがとうございます!」
「ごっちんがわざわざ作ったんだからなぁ、ありがたく食えよ!」

 「ナマモノだから冷蔵庫に入れといてね〜!」とだけ言い残すと、すぐに後藤さんと藤本さんは去っていってしまった。
 「あがってってくださいよ」と誘ったけど、「邪魔したくないし、そんな時間ないでしょ?」と藤本さんにサラッとツッコまれてしまう。

 藤本さんと後藤さんは堂々と腕を組んで歩いていて。
 あたしもいつか紺野さんとあんなふうにできたらなぁ、と思い、一度深くお辞儀をして二人を見送った。

 そしてあたしは料理を再開した。


「……できた〜!!」
 ときにはすでに外は薄暗くなっていた。
 時計を見ると約束の時間の10分前。
 慌ててお皿に盛りつけ、昨日必死に掃除した自分の部屋へ運ぶ。
 テーブルに料理を並べ終わると、タイミングよく「ピンポーン」というインターホンが響いた。

 ドキドキしながら玄関に向かう。
 扉についたスコープから外を覗くと、丸い視界に紺野さんが映る。

 ドキドキが激しくなる。落ち着け、あたしの心臓!
 一度大きく深呼吸してから、鍵を外して扉を開けた。

「あっ、田中ちゃん!」
「ようこそです、紺野さん!」

 扉を開けたとたん、紺野さんは柔らかな笑顔に変わる。
 あたしもつられて笑顔になる。胸のドキドキはもう収まっていた。

「誕生日おめでとうございます、紺野さん!」
「ありがとう!」
「あっ、こっちですよ〜!」

 そのままあたしの部屋まで紺野さんをエスコートする。
 部屋に入ると紺野さんはすぐ「わぁっ!」と叫んで、テーブルの上の料理に飛びついた。

「すごいっ! これ田中ちゃんが作ったの!?」
「はい! まだそんなに上手くないですけど」
「そんなことないよ! すごく美味しそう!」
「じゃあ冷めないうちに食べましょう!」

 あたしも紺野さんと向かい合うようにテーブルに着くと、紺野さんは待ちきれないといった様子で、「いただきます!」と叫ぶと、コロッケを一つつまんだ。
 ドキドキが蘇ってくる。
 上手く作れただろうか……?
 でもそんなあたしの心配をよそに、紺野さんは一口かじると、すぐに笑顔になった。

「美味しいよ、田中ちゃん!!」
「ほ、ホントですか!?」
「うんっ!」

 あたしも一口食べてみる。
 あっ、ホントに美味しい……。我ながらよくできてる。


 あたしが味わってるあいだにも紺野さんはすでに二つ目をお皿に取っていて。
 作ってよかったなぁ、と改めて思った。


「ごちそうさまでした! 美味しかったよ、田中ちゃん!」
「あ、ありがとうございます……」

 あたしの作ったコロッケはすぐになくなった。
 紺野さんがほとんど食べてしまって、あたしはあんまり食べられなかったけど、実際あたしは呑気に食事してられる状況でもなくて。

 そっとカバンの中から取りだした小箱を手の上で転がす。
 紺野さんへの誕生日プレゼント。
 しかし……ちゃんとあってるやろうか?
 一応絵里とさゆに調べさせたけど……あわなかったら本気でシメるけんね。


 左手に小箱を握り、幸せそうな顔をしている紺野さんに近づく。

「こ、紺野さんっ!」
「んっ?」

 ちょっと声が裏返ったけど気にしない。顔が異常に熱いけど気にしてられない。
 そのままの勢いにのせて、左手を紺野さんの前に差し出す。

「……誕生日プレゼントです」
「えっ? あっ、ありがとう!!」

 紺野さんはニッコリ笑って受け取ってくれた。
 「開けていい?」と訊ねられたので無言で頷く。

 シュルッとリボンがほどかれ、ラッピングが剥がされて……。
 そこで紺野さんの手が止まった。


「えっ……これって……」

 紺野さんも中身の察しがついたのだろう。
 手を伸ばし、紺野さんの手の上にある小箱のふたを開ける。
 そこにあるのは光り輝くシルバーのリング。

「た、田中ちゃん……?」

 無言のまま、指輪を箱から取り出す。
 そっと紺野さんの左手を取り、迷わず薬指に通した。
 指輪は紺野さんの指にピッタリとあった。


 呆然としている紺野さんを前に、あたしはもう一度大きく息を吸う。
 そして顔を上げ、紺野さんの目を見つめる。


「れいなは……紺野さんのことが好きです! ずっと……ずっと大好きです!」


 あたしが映っている瞳が大きく見開く。
 言えた……ようやく言えた……!
 でもドキドキはまだ止んでくれない。それどころかさらに速くビートを刻む。

 紺野さんは呆然としたまま動かない。
 普段からリアクションまでに独特の間があるんだけど……さすがにいつも以上に長い。
 はたして紺野さんの返事は……?
 Yes or No? Dead or Alive?



「……フフッ」

 ようやく紺野さんが動いたのはそれからたっぷり3分たったころだった。
 固まってた顔がニッコリと笑う。
 そして次に発せられた言葉は……

「先に言われちゃった〜!」
「……えっ!?」
「あのね……私も今日告白しようと思ってたの」

 一瞬紺野さんがなにを言ってるのかわからなかった。
 耳にはちゃんと入ってたけど、頭が理解してくれない。
 ようやく理解したときには、あたしは叫んでその場に立ち上がっていた。

「えっ? えぇっ!? あの……それってつまり……」
「両想いだったってことだね!」

 今さら慌てふためくあたしとニッコリと微笑んでいる紺野さん。
 完全に立場が逆転してしまった……。

「じゃ、じゃあ、れいなと付き合ってくれますか?」
「もちろん! あっ、でも……」

 そこまで言って、急に紺野さんは顔を曇らせた。

「でも……ホントにいいの、田中ちゃん?」
「えっ? なにがですか?」
「ホントに……私でいいの?」


 気がついたら紺野さんを抱きしめていた。
 膝立ちになり、紺野さんを自分の腕の中に閉じこめる。

「紺野さんだからいいんです!」
「た、田中ちゃん?」
「れいなは……紺野さんじゃなきゃイヤです!」


 自分でも無意識の行動と言葉だった。
 でもそれは確実にあたしの気持ちの欠片。

 そのまま抱きしめてると、そっと紺野さんの手があたしの背中に回るのが感じた。
 そしてあたしの胸の中で紺野さんが呟いた。



「嬉しい……最高の誕生日だよ……」


 そのあとのことは曖昧な記憶しかない。
 いや、後藤さんにもらったケーキを食べたり、たわいもないことを話したりと、一連の記憶はちゃんとあるんだけど、どうもその上に浮かれて舞い上がったあたしの喜びが上書きされて、あやふやになっていた。
 気がつくとすでに外は真っ暗になっていて、紺野さんもそろそろ帰らなくてはいけない時間。
 あたしは紺野さんを見送りに玄関まで足を伸ばす。

「それじゃね、田中ちゃん!」
「はい! 気をつけてくださいね」
「うん、今日はありがとね」

 紺野さんの左手の薬指にはあたしがあげた指輪が光っている。

「これからよろしくお願いしますね?」
「私のほうこそ!」
「それじゃ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ!」

 そういって紺野さんは外に出て行った。
 背中が見えなくなるまで見送ると、そのままふらふらと自分の部屋に戻る。
 そしてそのままベッドの上に倒れ込んだ。

 全然実感が湧かないけど……あたしはもう紺野さんの恋人なんだよなぁ……。
 そう思うと無性に嬉しくなって、気持ちが抑えきれなくなる。


 とりあえず携帯を取り出すと、(一応)応援してくれた絵里とさゆに結果を報告する。
 すぐに二通のメールが帰ってきた。
 両方とも最初はお祝いの言葉が書かれていたけど、最後は『で、どこまで進んだ?』と締めくくられていた。
 ムカツクから返信なんかしてやらん。

 そして後藤さんと藤本さんにも、ケーキのお礼とともに報告をする。
 二人とも祝ってくれたけど、案の定、メールの最後には、後藤さんは『またわからないことあったら相談してね〜! なんならごとーのマル秘テクニックを伝授しちゃうぞ!』と、藤本さんは『はやまんなよ!』と添えられていた。

 ……どいつもこいつも。
 思わず携帯を放り投げようと思ったけど、その瞬間に着信音が鳴り響く。
 誰だろうと開いてみると、そこには今までは先輩で、そして今日からは恋人になった人の名前。
 心臓がドキンと跳ね上がった。
 起きあがって着信ボタンを押す。

「は、はいっ!」
『あっ、田中ちゃん!』

 電話の向こうから聞こえてくる愛しい声。
 愛しい……恋人の声……。

『あのね、私田中ちゃんに言い忘れたことがあってさ』
「えっ? なんですか?」

 そのあと少し間が空いた。
 電話の向こうから、深呼吸をしているような、そんな音が聞こえてきた。
 そして……

『……私も田中ちゃんのこと大好きだよ!』
「……えっ?」

 電話をあてている方の耳が急激に熱くなった。
 紺野さんはなおも続ける。

『私田中ちゃんにまだ好きって言ってなかったからさ! ホントに好きだよ! ずっと好きだったんだから!!』
「あっ、れいなも……」
『そ、それだけだから! じゃあね、今度こそおやすみ!!』
「あっ、ちょっと待ってください、紺野さん!」

 慌てて紺野さんを呼び止める。
 切っちゃったかな、と思ったけど、ギリギリ間に合ったようで、電話の向こうから『なに?』という声が聞こえた。

「あのですねぇ、よく聞こえなかったんでもう一度言ってもらってもいいですか?」
『えぇっ!?』

 電話の向こうで真っ赤になっている紺野さんが容易に想像できる。
 可愛いなぁ、なんて思いながら、そのままベッドに倒れ込む。



 何回も聞きたい言葉がある。
 何回も言いたい言葉もある。
 これ以上望むと紺野さんが沸騰しちゃいそうだし、あたしも心臓がもたなそうだけど、でもあと一回だけ……。



『え…と……大好きだよ、田中ちゃん!』
「れいなも大好きです、紺野さんっ!!」






あとがき

長っ!!
はい、調子に乗って書いてたら最長記録になっちゃいました!
やっぱごまみきを絡ませると長くなるんだよねぇ〜。

そしてようやく結ばれてくれました!(笑
これからは甘々なれなこんを書ければなぁ、と。
ちゃんと紺ちゃんも「受け」でね!

从 ´ヮ`)<フォーエヴァー!>(・-・o川