「ふぃ〜、疲れた〜……」

 コンサートが終わって、あたしたちはバスの中へ戻ってくる。
 そこでようやく一息つく。
 今日は地方まで来てるからこのあとはホテルに直行。

「はい、れーな、今日の部屋割りだよ〜。くふふ……」
「? ありがと」

 隣に座ってた絵里が部屋割りの書かれた紙をまわしてくる。
 最後の謎の微笑みがわけわかんないんだけど……。
 とりあえずは極力気にせずに部屋割りに目を通す。

 あっ、絵里はさゆとだ。さっきの微笑みはこういう理由か……。
 とか思ってたら……違った……。


  305:高橋・新垣
  306:亀井・道重
  307:紺野・田中

「ぇえっ!?」

 思わず大声を上げてしまって、皆さんの注目を集めるハメに……。
 こ、紺野さんと同じ部屋!? てことは……狭い部屋に二人っきり……。
 そういや以前小川さんが紺野さんの寝相は浴衣がはだけるほどすごいって言ってたような……。
 し、刺激が強すぎる……。あたしの場合ちょっとドキドキするだけじゃ済まなか……。

 隣の絵里の方を向くとまたニコッと微笑む。
 「れーな、よかったねぇー!」という祝福の微笑みか、はたまた、「こりゃあおもしろくなってきた!」という邪悪な微笑みか……。
 とりあえず勝手に後者と判断して、絵里のおでこにデコピン一発。

 しかし……大丈夫かなぁ……?



  天国で地獄な時間



「ど、ど、ど、どーしよ、絵里!?」
「いいじゃん、チャンスだよ?」

 ホテルに着くと、あたしは一目散に荷物を置いて、絵里の部屋に避難する。
 ちなみにさゆは今お風呂に入ってるみたい。

「だって〜! 紺野さんと同室になるのなんて初めてだし!!」
「大丈夫だよ。きっと紺野さんもハジメテだって!」
「……殴ってよか?」
「ごめん。やだ……」

 握りこぶしを作ってみせると、さすがの絵里もおとなしくなる。
 まったく……せっかく人が相談してるっていうのに……。

「でもさぁ、やっぱりチャンスはチャンスじゃん? ほら、バレンタインでも結局告白できなかったんでしょ? さくらとおとめのテレビ収録の時だってせっかくいい雰囲気になったのに結局告白できなかったじゃん!」
「あ、あの時覗いてたのっ!?」
「くふふ、れーなの甘えんぼ〜!!」

 もはや恒例になったけど、絵里のほっぺたをつねって極限まで伸ばす。
 そろそろあたしも新しい攻撃を開発しようかな?
 そんなことを考えながらほっぺを離すと、やっぱり涙目で頬をさする絵里。


「で、でもさ、せっかく二人っきりなんだから、やっぱり想い、ちゃんと伝えてみれば? 鍵かけとけば邪魔は入らないし。あっ、もちろん絵里も邪魔しないからさ。」
「う、うん……」
「それができなかったらさ、せめて紺野さんが寝てるあいだに唇だけは奪うとかさぁ!」

 おそらく絵里は冗談のつもりで言ったんだろうけど……
 それを聞いた瞬間あたしは耳まで真っ赤になった。
 それ……もうすでにやっちゃった……。


「あ、あれ? れーなどうしたの? 真っ赤になっちゃって……」
「な、なんでもなかっ!!」
「もしかしてれーなキスは済んでるの!?」
「こ、声が大きい!! さゆに聞こえたらどうするんだ!!」
「そっかぁ! れーなもなかなかやるじゃん! でもさぁ、キスが済んでるんなら次はやっぱり……」
「やっぱり?」
「押し倒せ!」

 今度こそ絵里の満面の笑顔を利き手のグーで殴る。
 まったく、やっぱり絵里に相談したのが間違いやったとよ。

 痛がってる絵里をそのままにして、あたしはさっさと自分の部屋に戻った。


 部屋にもどると紺野さんはいなかった。
 でも荷物はある。てことはあたしと同じように誰かの部屋に遊びに行ってるのかな?

 しかし……絵里が余計なこと言ってくれちゃったんで、今のあたしは意識するなっつーほうが無理な状態……。
 ちょっとさっぱりしよう……ついでに頭も冷やそう……。
 そう思い、替えの下着と浴衣を持ってバスルームに向かった。

 ドアノブに手をかけてガチャッとまわす。
 中から光が溢れてきた。
 そう、完全に開けきる前に気付くべきだった。
 電気が最初っから点いていたことに……。


「キ、キャッ! た、田中ちゃん!?」
「えっ!? う、うわっ!?」

 顔がまた一瞬で沸騰する。
 開けたドアをまた思いっきり閉めた。

 ハァ、ハァ……見てない、見てないもーん!
 小高い山二つなんて見てないもーん!

「あの、田中ちゃん……」

 ギャーッ!! 
 せっかく見なかったことにしてるのにバスタオル一枚なんていう刺激的な格好で出てこないでくださいっ!!


「あの……お風呂入りたいんだったら、一緒に入る?」
「……はっ?」

 一瞬なにを言ってるんだかわからなかった。
 な、なに……この人は無意識に誘ってるわけ?

「ユ、ユニットバスなんだから二人も入れるわけないじゃないですか。いいから早く入ってきてくださいよ!」
「あっ、それもそうだね。それじゃお先に」

 パタンとドアが閉まると同時に力が抜ける。
 ハァ、ハァ……紺野さんの天然は心臓に悪い……。
 そのうち扉の向こうからシャワーの音が聞こえてきたんだけど……


『覗いちゃえよ。もっとはっきりくっきりじーっと見たいんだろう? 覗いちゃえよ!』

 あぁ、どこからともなく悪魔の囁きが!
 どことなく声が吉澤さんっぽい……。

『いけません。覗いてはいけません! そんなことしたら嫌われちゃいますよ?』

 あ、天使の声は石川さんっぽい……。


 あたしの中では天使と悪魔が大格闘中……。
 結局決着は付かないまま、紺野さんが浴衣姿で出てきて、あたしの葛藤は終わった。

「田中ちゃん、あいたよ〜! ごめんね、先入って」
「い、いえ……」

 浴衣から覗く肌はほてって、少しピンク色になっていて……
 髪はドライヤーをかけたのだろうけど、まだ少し濡れててシャンプーの香りが漂ってくる。
 い、色っぽい……。

 あんまり紺野さんを直視できないまま、あたしはバスルームへ入っていった。


 軽くシャワーを浴びて今日一日の汗を洗い流す。
 ついでに気持ちもリフレッシュ……できたらいいんやけど……。

 髪を乾かしてバスルームを出ると、紺野さんはもうすでにベッドの中に潜り込んで携帯をいじっていた。
 どうやらすでに寝る準備万端みたい。

「すぐ寝ますか?」
「うん、そうしよう。今日も疲れたし、明日も早いしね」
「そうですね」

 部屋の照明を一つ一つ消していく。
 やがてついている灯りは枕元の照明だけになり、真っ暗にする前にあたしもベッドに潜り込む。
 アラームをセットしようと携帯を開くと、メールが一通来ていた。
 あっ、絵里からだ。


   件名:やった〜!
   From:絵里
   ──────────
   さゆに「一緒に寝よう
   ?」って言ってみたら
   「いいよ」だってー☆
   れーなも紺野さんに頼
   んでみたら?あっ、そ
   れとももしかしてもう
   お楽しみ中?ごめーん
   邪魔しちゃった☆



 よ〜し、絵里明日シメる!
 けど一緒に寝るのか……よかったじゃん。……いいなぁ。
 ていうか……紺野さんに頼むのなんて……ぜ、絶対無理っ!


「ねぇ、田中ちゃん」
「あっ、はい、すいません、寝ましょう」
「ん〜とさ……もしよければ、一緒に寝ない?」
「ぇえっ!?」

 体が一瞬跳ね上がって硬直する。
 こ、紺野さんはエスパーか!?
 ていうかもしかして誘ってる? 誘われてますか、あたし?
 なんて、どうせ無意識だってのはわかってるんだけど……

 ふり向いてみた紺野さんの顔はちょっと困惑したような、モジモジしたような、そんな顔で……
 照明のあたり具合でよくわからないけど、もしかしたらちょっと赤いのかもしれない。
 どうとればいいんだろう……? 良いようにとって……よかと?


「えっと……いいんですか?」
「うん……私寝相悪いけど、それで田中ちゃんがよければ……」
「じゃあ……失礼します」

 自分の枕を持ってそっと自分のベッドを抜け出す。
 ドキドキして、なんかからだが自分のじゃないみたい……。
 紺野さんは笑顔になって、布団の端をめくると、「おいで」といって手招きしてくる。
 なんでこの人は的確にあたしの体温を上昇させるようなことをしてくれるのか……。

 紺野さんのベッドにはいると紺野さんの優しいぬくもりが身体に伝わってくる。
 枕元の照明を落とすと辺りが暗闇に包まれる。
 それでも紺野さんの笑顔がわかるほど、近くに顔がある。
 どうかあたしの顔が赤いことが紺野さんにわかりませんように……。


「おやすみ、田中ちゃん。明日も頑張ろうね」
「はい。おやすみなさい、紺野さん」

 そっと目を閉じる。
 眠れるかな?
 そんなことを考えていたけど、だんだんと意識が遠のいていく。
 確かに紺野さんのことは意識しちゃってるけど、ドキドキするというよりはむしろ落ち着くといった感じ。
 近くにいてくれるだけで安心できるような、そんなあったかいぬくもり。

 そっと手になにかが触れた。
 そこだけ強くなるぬくもり。
 紺野さんの手。あたしの手をしっかりと握っている。


 そこからぬくもりがだんだんと体中に行き渡ってきて……
 最後には意識さえも紺野さんのぬくもりの中に包まれてしまった。


 翌朝。
 どうやらぐっすりと眠れたようで、携帯のアラームが鳴る前に目覚めてしまった。
 手に伝わるぬくもりは消えてない。寝ているあいだずっと繋いでいたみたい。
 あくびをしながら目を開けると……

「! うわっ!」

 小川さんの予告(?)どおり、紺野さんのはだけた胸元が目の前に、目の前にっ!
 慌てて目をそらす。
 ど、どうしよう……。


『直してあげるべきです!』
『脱がしちゃえYO!』

 あ゛あ゛あ゛っ……また天使と悪魔が大バトルを……。


 結局このバトルは、携帯のアラームが鳴り、紺野さんが目覚めるまで続いた。

 教訓:紺野さんと一緒の部屋は天国と地獄を一緒に見ます……。








   件名:お願いです!
   From:亀井ちゃん
   ──────────
   今日紺野さんはれーな
   と同室ですよね?もし
   よければれーなと一緒
   に寝てあげて下さい!
   れーなって見かけによ
   らずけっこう寂しがり
   屋なんで喜ぶと思いま
   す。あとこのこと絵里
   が言ったってことはナ
   イショですよー?







あとがき

あっはっは! もう完っ全にハマりました(認
とりあえずもうやりたいことをやりまくったれなこん小説。
振り回される田中が……可愛い(ぇ
なにげに亀井もなんとなくステキなキャラになってきました。
もうちょっと続く……かなぁ?
ていうかコンサートっていつだ? 4月!?
だいぶフライングだなぁ……。

从 ´ヮ`)<戻るけん!