「つまんなーい!!」
あたしの叫びが室内にこだまする。
でもそれに応えてくれる人は誰もいない……。
今日はせっかくのバレンタインデー。そしてあたしは奇跡的に仕事が休み。
なので昨日の夜一生懸命チョコを作って、朝もはよからなっちを強襲しに来たんだけど、なっちは急な仕事が入ったみたいで、家はもぬけの殻。
よーするに見事にすれ違いです……。
それなら待ち伏せしてやる〜、と思ったものの、なっちがいないとやることがない……。
今日は仕事ないって言ってたのに〜……。
そしたら今頃はなっちに甘えたり、イチャついたり、一緒にチョコ食べたりしてたのに〜……。
彼、旅行中なり……じゃなかった……なっち、仕事中なり……う〜……
陽だまりの中で
「つまーんなーい!!!」
もう一度叫んでみるけど状況が変わることはなくて……。
何時に帰ってくるのかわからないけど、下手したら夜までかかる……。
メールしてみても返事がない……。ま、仕事中だしね。
やることがなくて、なっちのベッドにダイブして、枕に顔を埋める。
なっちの匂いが少し残ってる。
うわー! よけーに逢いたくなっちゃったじゃないかー!!
「暇だ〜!!!」
窓際に置かれたベッドからは、レースのカーテン越しにさんさんと輝く太陽が見える。
なんかなっちの笑顔みたい……。
外はまだ真冬の寒さだってのに、ベッドの上は差し込む日光でポカポカで。
まるでなっちに包まれているようで……
あたしの意識はいつの間にかお日様の光に連れ去られていた。
☆
夢を見ていた。
あったかいぬくもりに包まれて、なっちと二人。
『ごっちん……これ……』
なっちがちょっと赤い顔で箱を差し出す。
これって……もしかして……
『チョコ?』
『うん……え〜と…本命チョコ…デス……』
『わーい! ありがと、なっち!!』
不意打ちで頬にキスをすると、なっちの顔はよりいっそう赤く染まる。
リボンをほどいて中を見ると、ピンクのクッション材の上に乗っているハート形のチョコレート。
『ごっちん大好き』というメッセージがホワイトチョコで書かれている。
『食べていい?』
『うん、どうぞ』
『じゃあいただきまー……あれっ?』
チョコを食べようとすると、クッション材の中にキラッと光るなにかを見つけた。
なんだろう、と思ってそれを手に取る。
なっちは『見つかっちゃった』と言って照れたように笑った。
『指…輪……?』
『そう、ペア』
すっと出されたなっちの左手。
薬指にあたしの手の中にあるのと同じ輝きがあった。
『嬉しい……』
同じように左手の薬指に指輪を通す。
指輪はピッタリとはまった。
☆
目を覚ますと、あたしは眠る前以上のぬくもりに包まれていた。
前にまわされた手にそっと手を添える。
背中に感じるぬくもり。触れた手のぬくもり。そのぬくもりだけでわかる。
「……お帰り、なっち」
「ただいま、ごっちん。ごめんね、急に仕事入っちゃった」
「待ちくたびれたよ」
「寝てたくせに」
モゾモゾと向きを変えて、なっちに抱きつく。
なっちも優しく頭を撫でてくれて。
ぬくもりがもうちょっとだけあったかくなった。
「そうだ! なっち、チョコ!」
「ん、なっちもあるよ。じゃあ交換しようか」
「うんっ!」
バッグの中から昨日作ったチョコを取り出す。
なっちもちょっとだけ赤い顔で、箱を胸に抱えて立っていた。
「じゃあなっち、はい、本命チョコ!」
「ありがと、ごっちん! じゃあなっちも、本命チョコ!」
「ありがとー!!」
箱を受け取る。
リボンをほどいて開けようとして……手が止まる。
あれっ? この箱、このリボン……
もしかして……。
「なっち……この箱の中身あててあげよっか?」
「えっ? だからチョコだって……」
「もう一つ……入ってるでしょ?」
「えっ……?」
さりげなく背中に隠されていたなっちの左手を掴んでそっと前に出す。
その薬指に輝いている星。
なっちの顔が一瞬で赤くなった。
「ペアリング。入ってるんでしょ?」
箱を開けてクッション材の中を探す。
やっぱり中から光り輝く指輪が出てきた。
「な、なんで知ってるんだべ、ごっちん!?」
「えへへー、ナイショ! ごとーはなっちのことならな〜んでもわかるんだよ〜!!」
「な、なんだべさ、それ!」
「でもさ、なっちだってごとーのことわかってるじゃん!」
「えっ?」
「この指輪!」
太陽にかざすとキラッと輝く。
それをそっと左手の薬指に持っていく。
「あっ! でも……指輪のサイズちゃんとあうかどうか……」
「大丈夫、あうよ」
「でも、なっちごっちんの指のサイズ聞いたことなかったし……」
「大丈夫なんだってば!」
左手の薬指になっちからもらった指輪を通す。
ほら、今度もピッタリ!
あとがき
バレンタイン小説なちごまバージョン!
けっこうほのぼのと。
ていうかあんまりバレンタイン関係ない!?