「ん〜?」

 目を開けるとそこには愛しい人の寝顔があって。
 なんとなく朝から得した気分になる。

「ポンちゃ〜ん、朝だよ〜?」

 髪を撫でてみてもポンちゃんは起きる気配がなくて。
 しょうがないなぁ、なんて思いつつももうちょっとこの可愛い寝顔を見ていたいって気もある。

「ポンちゃ〜ん、遅刻しちゃうよ〜?」

 髪の次はほっぺたを撫でてみる。
 ぷにぷにと気持ちいい感触が手に伝わるけど、それでもポンちゃんは目覚めない。
 しょうがないなぁ……。

「ポンちゃん……さっさと起きないとキスしちゃうぞ〜?」

 腕を首にまわし、そっと顔を近づけていく。
 あと3センチ……2センチ……1センチ……。
 そっと私もまぶたを閉じる……。




「れーな?」
「れいな〜?」



  Honey Lips



「んがっ?」

 目を開けるとそこには絵里とさゆの顔があって。
 なんとなく……損した気分になる……。

「れいな、そろそろ収録始まるから着替えないと!」
「えっ?」

 辺りを見渡してみると、さっきまでくつろいでたメンバーも慌ただしく今日の衣装に着替えだしていた。
 そこでようやく楽屋についてからうとうととうたた寝をしていたことに気づく。
 ……また夢かいっ!!
 どうやらあたしは願望が夢に投影されるタイプみたいだ……。
 目をこすりつつ、座ってたソファから立ち上がる。
 そして用意された衣装に着替え始める。


「れいな、眠そうだねぇ?」
「まぁね……ポンちゃんチに泊まるとどうしてもあんまり眠れんのよ……」
「「ぇえっ!?」」
「ちっがーう!!」

 絵里とさゆの叫び声が綺麗にハモった。
 こいつらがなにを考えたのかが一発でわかり、あたしは即座に否定する。

 いやいや、そんなうらやま……じゃなく、いかがわしいことじゃないとよ……。
 ただ一緒に一つのベッドで寝ただけなんだけど……。

「ほら、ポンちゃんって寝相悪いけん……」
「あぁ、なるほど!」

 夜中に急に抱きつかれたり、フッと目が覚めたらはだけた胸元が目の前にあったり……。
 おかげであたしの理性はいつもギリギリ……。


「まぁいいや。それより収録始まるから行こう〜!」
「うん……ふぁ〜あ……」

 あくびをかみ殺しつつ、あたしは楽屋をあとにした。


 ポンちゃんとつきあい始めて2ヶ月がたった。
 季節はすっかり夏になり、暑い日が続いている。

 あたしはもう自然に「ポンちゃん」と呼べるようになった。
 ポンちゃんもあたしのことを「れいな」と呼んでくれる。

 ……が、そのあとはいっこうに進展なし……。


「れーな、どこまで進んだの〜?」
「もう、した〜?」

 収録が終わって帰ってきた楽屋。
 絵里とさゆにからかわれるのも日常茶飯事になってしまった……。

「……マダ……」
「え〜、つまんないの〜!」
「したくないの、れーなぁ?」
「うっさい!!」

 絵里とさゆのほっぺたを同時に引っぱる。
 そりゃああたしだってしたいとよ!
 あぁんなことやこぉんなこと……とまではいかなくとも、せめて普通にイチャつくくらいは……。

 でも……どうしても最後の一歩が踏み出せない……。
 恋愛(?)の先生である藤本さんと後藤さんにも相談しに行ったんだけど……。


『はぁ? なに、田中まだヤってなかったの!?』
『ありえないんだけど!』
『ごとーなんか付き合い始めて1週間でミキティ押し倒したよ?』
『いやごっちん……あんま自慢になんないから……』
『とにかく押し倒しちゃえ! あとはなるようになるよ!』


 いやいやいやいや……。
 あたしが相談したいのはそういうことじゃなくて……。
 ていうかあたしまだ中学生なんですけど……。


 今日もあたしは紺野さんの家にお呼ばれ。
 ヤバイなぁ、また睡眠不足になりそう……。

 紺野さんは途中で買ってきたファッション雑誌を読み始めたので、あたしも雑誌を借りて適当に読む。
 でも……どうしても時々紺野さんの方に目がいってしまう。

 整えられたまつげ、ぷにっとしたほっぺ、そして……薄く潤った唇……。
 どうしよう……キスしたい、キスしたい、キスしたい……。

 そのままジーッと見ていると紺野さんもチラッとあたしの方を向いて、一瞬目が合う。
 思わずバッと視線を目の前の雑誌に移す。
 見つめてたの……ばれちゃったかな……?


「れいな〜」

 雑誌で顔を隠していると、ポンちゃんが近づいてくる気配がする。
 そのままでいると、ポンちゃんはアタシの後ろに座って……

「ねぇ、これなんかれいな似合うんじゃない?」
「えっ!?」

 あたしが読んでた雑誌に、自分の雑誌を重ねてくる。
 それはつまりあたしは後ろから抱きしめられるような格好になっちゃってて……。
 右肩の上からポンちゃんが顔を覗かせている。

「ポ、ポンちゃん……っ?」
「ほら、あとこれとか〜!」

 楽しそうに雑誌をめくるポンちゃん。
 でもあたしはそれどころじゃない。

 背中にはポンちゃんの体温が伝わってきて……。
 首筋はポンちゃんの髪に撫でられて……。
 ほっぺたはポンちゃんの吐息が掠めて……。
 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……。

「あっ、これもいいんじゃない? かっこよくて」
「そ、そうですね……」

 なんとか理性を振り絞りつつ、適当に話をあわせて、腕の中から逃れようとしたけど……

「でも……れいながこんなの着たら、私もっと好きになっちゃうな」

 耳元で囁かれた『好き』の一言がトドメだった。
 もう、ムリ……。


「ポンちゃん……」
「んっ? なぁに?」
「……すいませんっ!!」
「えっ……んっ!?」

 ポンちゃんの腕の中で、器用に体を反転させる。
 ポンちゃんの身体を抱きしめ、目を瞑って、噛みつくようにポンちゃんの唇を奪った。
 背中の後ろでバサッと雑誌が落ちる音がした。

 ポンちゃんの身体が硬直していく。
 でもそんなことはまったく気にはならなくて。
 あたしは唇に感じる甘く、柔らかい感触にすっかり酔いしれてしまった。


 しばらくして、名残惜しいけどそっと唇を離す。
 そのとたんに恥ずかしさが込み上げてきて、顔が火照り出す。
 まともに顔を見ることもできなくて、そのままポンちゃんの胸元に顔を埋めた。
 ポンちゃんはまだ固まったまま。
 でもポンちゃんの心臓はドキドキと早鐘を鳴らしている。

「その……すいません、つい……」
「……あっ、えっと……」

 ポンちゃんもようやく硬直が解けたらしい。
 胸元に抱きついているあたしをそっと抱きしめたあと、身体が離れる。
 そしてようやく顔を合わせる。
 ポンちゃんの顔は真っ赤で、それは多分あたしも……。

「……嫌……でしたか?」
「ううん、そんなことないよ。ただちょっとビックリしただけ。いきなりだったから」

 ポンちゃんが照れたように頬を掻く。
 でもその手はなぜかあたしの頬に伸ばされて……

「でも……できればもうちょっと優しくしてほしかったな」
「えっ?」
「こんなふうに……」

 今度はあたしが固まる番だった。
 同じ唇のはずなのに、まったく違う味と感触……。


「ふぅ……」

 結局最後まで目を閉じることもできないまま、離れていくポンちゃんの顔をじっと見ていた。
 ポンちゃんはニコッと微笑んだあと、そっとあたしを抱きしめた。
 あたしはしばらく放心状態だったんだけど……

「初めてのキスの時は優しかったのに」

 ……初めてのキス?
 でもポンちゃん優しくしてほしかったって……。
 ……って! まさかっ!?
 思い当たる節が一つ、ピンポイントであるんですけど……。

 一気に覚醒したあたしはガバッとポンちゃんから離れた。


「ま、まさかポンちゃん、お見舞いのとき起きとったとですか!?」
「ん〜、朦朧としてた。でもその反応だと……本当にしたんだ?」
「ぁうっ……」

 しまった……はめられた……。
 ポンちゃんはあたしをジト目で見ている……。


「あ、あれはその……つい出来心というか、若気の至りというか……」

 必死に弁解しようとするけど、人差し指が唇に添えられて、言葉を遮る。
 いつのまにかポンちゃんは満面の笑顔に戻っていた。

「ゆ、許してくれるとですか?」
「ん〜、もう時効だしね。でもそのかわり……」
「えっ……」

 ポンちゃんが目を閉じて、心持ち唇を突き出す。
 これって……あれですよね……?

「今度はちゃんと優しく……して?」


 ポンちゃんの頬を両手で包み込む。
 ドキドキ高鳴る心臓をなんとか抑えつつ、だんだんと顔を近づけていく。
 触れる瞬間にあたしも瞳を閉じる。

「ポンちゃん、大好きです……」
「私も……」


 答えの続きを飲み込むように……
 交わされたキスは、今日3回目……。






あとがき

久々のれなこんは、もうこれでもかってくらいイチャイチャで甘々でラっブラブで!
ぐはーっ、やりきったって感じです!(笑
やっぱりれなこんだとポンちゃんがちょっと大人ですねぇ〜!
なんとなく、れいなが思いっきり突っ走って、ポンちゃんがそれを優しく受けとめてくれるようなのがれなこんスタイルかなぁ、なんて……。

从 ´ヮ`)<戻るけん!