今日は新曲と、コンサート用の曲のダンスレッスン。
 で、今は新曲のダンスレッスンが終了し、休憩中。このあと今度のコンサートで歌う『Mr.Moonlight』のダンスレッスン。

 あたしは一応昨日練習してきたんで、新曲のフリは覚えきった。
 それはもう「完璧です!」って言える感じ。
 でも本来そのセリフの持ち主さんは、どうやら覚えきれなくって宿題にされてしまったみたい……。



  プライベート・レッスン



「おつかれ、れーな〜!」
「おつかれ〜! れいなフリ覚えられた?」
「お疲れ、えり。さゆもお疲れ! もう完璧とよ! まかせて!」

 休憩のあと『Mr.Moonlight』のダンスレッスンをし、今日はそれで終了した。
 あたしはなんとか『Mr.Moonlight』のフリも覚えきった。なんか藤本さんが苦戦していたみたいだったけど。
 汗をふきながらえりとさゆと話しつつ、合間にちらっと紺野さんのほうを見る。
 紺野さんは小川さんと一緒に新曲のフリの確認をしてるようだ。


「あれ〜? れいな紺野さんに熱い視線送っちゃって〜!」

 そのままジーッと見てると、その視線に気づいたさゆがからかってくる。
 それで我に帰り、慌ててさゆとえりの方に向き直る。

「べ、別に熱い視線なんか送ってなか……」
「小川さんとフリの確認してるみたいだねぇ」
「あ〜、宿題出されてたからねぇ」
「妬けるんじゃん、れいな〜!」
「だ、だれがっ!」

 う〜、からかってくるのが二匹になってから本当にタチが悪い。
 言い返しても二人でクスクス笑う始末。
 ホントにどうしてくれよう?

「あっ! そうだ!!」

 二人まとめてシメ上げる方法を考えていると、小悪魔が一人微笑んだ。
 えりがさゆにこそこそと耳打ちし、そして小悪魔が二人に増えた。

「れーなってさぁ、今回の新曲って紺野さんとポジション対称だよね?」
「そ、そうだけど……?」

 な、なんだろう、この前フリは……?
 すっごく嫌な予感しかしないんだけど……。
 二人は顔を合わせてにやりと笑うと……


「「紺野さ〜ん!!」」

 ダダダッと紺野さんに駆けよる絵里とさゆ。
 そしてまた引きずられるあたし。
 絵里とさゆはそのままの勢いで小川さんをはねのけ、紺野さんの前にあたしを突き出す。
 か、仮にもセンパイになんてことを……!!
 小川さんは「亀井ちゃんとシゲさんが〜!」とか言って、『Mr.Moonlight』の衣装でばっちり決めている吉澤さんに泣きついた。


「ど、どうしたの、田中ちゃん?」

 ぇえっ!? あたしですか!?
 あたしもこの後ろの二匹に聞きたいんですけど……。

「紺野さ〜ん、新曲のフリ覚えられなくてお困りのようですね〜?」
「だったら小川さんなんかよりもっと頼りになる人がいますよ〜!」

 小川さんが部屋の隅で「私なんて……」といじけてるのが見える。ついでに吉澤さんが慰めてる。
 なにげにこいつら酷いなぁ……。
 ていうか、それよりも……
 なんか背中を押す力が強くなってる気がするんですけど?

「今回れーなって紺野さんと対称なんですよ!」
「だからフリもほとんど同じなんですよ!!」
「あっ、そう言えばそうだよね」
「しかもれいなは今日のダンスレッスンでフリも完璧に覚えたって言ってましたし」

 押す力が強くなる……強くなる……。

「とゆーわけでぇ……」
「れーなが個人的にダンスレッスンしてあげるそうです!!」
「えっ? 田中ちゃんが?」
「ちょ! なに勝手に!!」

 やっぱり……嫌な予感的中……。
 こいつらは……いっつも余計なことを!

「どうですか、紺野さん? れーなもこれから予定なんてありませんし!」

 確かにないけど……
 紺野さんは少しのあいだ考えていたけど、やがておずおずと顔を上げた。

「じゃあ……頼んじゃってもいい、田中ちゃん?」

 うっわ……そんな上目遣いで頼まないでください!
 なにも言い返せなくなるじゃないですか!
 でも今のあたしには余計な代弁者がついているんであって……

「どうぞ、どうぞ! 持ってってください!」
「なんなら一晩中でも大丈夫なんで〜!!」

 絵里とさゆが快くOKしてくれました……。


「ど〜ぞ〜、入って〜!」
「は、はい……お邪魔します」

 というわけで、あたしはスタジオから紺野さんの家に直行。
 スタジオ出るときに、絵里とさゆが、「頑張ってねぇ〜!!」などといらん声援送ってくれたり……
 高橋さんと新垣さんが、まだ凹んでた小川さん放り出して、「おぉ〜、あさ美ちゃんが田中ちゃんお持ち帰りだよ〜!!」などと言ってニヤニヤしてたりしましたが……。

 紺野さんの家に来るのはこれで3回目。
 やっぱりまだドキドキが止まらない。
 ロボットみたいな動きで、あたしは紺野さんの家に足を踏み入れる。
 するとそのままリビングに通された。

「じゃあ、田中ちゃん。さっそくだけどお願いします」
「あっ、はいっ!」

 でもなんか……こう、好きな人に頼りにされるのって……いいかも……。
 もともと絵里とさゆに無理やりやらされたんだけど、少しずつやる気が出てきた。

「じゃあ……とりあえず一通り踊ってみてください。どこがまだなのか確認するんで」
「うん!」

 デモテープをコンポに入れて、最初のポーズを取る紺野さん。
 あたしはそんな紺野さんの前に陣取って座る。
 そして流れ出したメロディーに合わせて踊り始める紺野さん。

 思えば……こんなふうに踊ってる紺野さんを間近で見るのって初めてかも……。
 いつも一緒に踊ってるのに、こうやって見るのってないよねぇ。

 真剣な表情で踊ってる紺野さんに、あたしはいつの間にか目を奪われていて……
 曲が終わっても、そのまま紺野さんを見つめていて……
 紺野さんに「田中ちゃん?」と呼びかけられて、ようやく気づいた。

「は、はいっ!?」
「えーと、どうだった?」
「え、えーと……すいません、もう1回……」
「えっ?」
「ちょっと1回じゃわからなかったんで……」

 まさか見とれててわかりませんでしたなんて言えない……。
 せっかく紺野さんが頼ってくれたんだから、ちゃんとしないと!


 そのあとはあたしも、いろんなことにガマンしつつ、真面目に教えて。
 けっこう時間はかかったけど、紺野さんは一通り覚えられたみたい。
 最後にもう一度通して踊るのを確認する。

「どう? 田中ちゃん……」
「れいな的にはオッケーだと思いますよ」
「ホント? よかった〜!」

 今までの真剣な表情とは一転、紺野さんは嬉しそうにふんわりと笑い、あたしはまた胸をときめかせる。
 紺野さんは汗を拭いながら、あたしのとなりに腰を下ろした。

「ありがとね、田中ちゃん、こんな時間まで。ちゃんと覚えられたのも田中ちゃんのおかげだよ!」
「いえ……そんな……」
「なんかお礼しなきゃね。なにがいい? 私にできる範囲だったらなんでもするよ?」
「えっ? なんでも……?」

 反射的にあぁんなことやこぉんなことを考えてしまい、ブンブンッと頭を振って妄想を追い出す。
 だ、ダメだ! そ、そんなこと……。せっかく株が上がったってのに。

「じゃあ……今度のツアー終わったら少し長めのお休みあるじゃないですか?」
「あぁ、うん、あるね」
「そのうちの一日でいいんで、れいなにくれませんか?」
「えっ?」

 言ってるうちにどんどん顔が熱くなってくる。
 でも、せっかくのチャンスなんだから……勇気を出して……。

「れ、れいなと一緒に……ふ、二人でどこか行きません?」

 紺野さんは最初はビックリしてたみたいだけど、やがてまたふんわりと微笑んだ。

「あっ! デートね。いいよ、行こう!」
「デっ……!」

 そんなふうにはっきりと言わないでください……こっちのほうが照れちゃいます……。

 でも紺野さんはあっさりとOKしてくれて。
 それはもう、飛び跳ねたくなるくらい嬉しかった。

「じゃあ絶対ですよ? 楽しみにしてます!」
「うん!」
「それじゃあ……そろそろ帰りますね?」

 いい加減もうかなりいい時間だ。
 外なんて真っ暗になってるし。
 明日もダンスレッスンだから、さっさと帰って休まないと明日に差し支える。
 荷物を持って帰ろうとしたんだけど……

「あっ! 田中ちゃん!!」

 紺野さんに呼び止められた。



「もう外暗いしさ……よかったら泊まってかない?」
「……えっ!?」






あとがき

書いてみちゃった2! プライベートレッスンれなこんヴァージョン!
というわけで同時進行になっちゃいました。まぁ、いいか。
そんでもってなんか凄いところで終わってますが……
続きはそのうち書きたいと思います〜!
しかしキャラが勝手に動くってあるんですねぇ〜(謎

从 ´ヮ`)<戻るけん!