「あっ!」

 仕事が終わって、家に帰ってきて。
 夕食も食べて、お風呂にも入って、寝る準備を万端に整えてから気付いた。

「リップクリーム切れてたんだ……」

 今日の撮影前に使い切っちゃったんだった……。
 う〜ん……

「ま、一晩くらい大丈夫かな……?」

 もうパジャマにも着替えちゃったから、今から買いに行くのはめんどくさいし……。
 明日はオフだから明日買いに行けばいい。
 仕事の疲れもあって、アタシはそのままベッドに倒れ込んだ。



  リップ・ケア



「ミキティ〜」
「ん……」
「ミキティ〜!!」
「んっ……!?」

 身体が揺すられる感触でアタシは目覚めた。
 昨日寝る前は、この部屋にいたのはアタシだけだったはず。
 てことは、アタシ以外にここにいれるのは……

「ごっちん……?」

 合い鍵を持っているごっちんだけ。
 目を開けると、そこにはやっぱりアタシの恋人であるごっちんの笑顔があった。

「あはっ、おはよう、ミキティ! 今日仕事休みだよね? ごとーも休みだから来ちゃった!」
「ごっちん……珍しく朝早いね……」
「ミキティに早く会いたくて飛んで来ちゃった!」

 ようやくぼやけた頭が覚醒してきて、状況を理解する。
 どうやらごっちんはアタシが寝ているベッドによじ登り、アタシの上に覆い被さっているみたい。

「何してんの、ごっちん……?」
「ミキティ、寝顔も可愛いね!」
「いつも見てるじゃん……」
「そんなことないよ。いつもはごとーの方が遅くまで寝てるし」

 ごっちんに抱きかかえられ、アタシはベッドの上に体を起こす。
 ごっちんはそのまま寝癖でボサボサのアタシの髪を優しく手櫛で整えてくれて。
 それが気持ちよくて、アタシはまた眠くなってしまう。

「んあ、寝るなーっ!!」
「だってぇ、気持ちよくて、つい……」
「む〜、仕方ない、ちゃんと起こしてあげる!」

 髪を撫でていたごっちんの手がアタシの頬に移った。
 そのままちょっと上を向かされると、ごっちんの唇が舞い降りる。

「んっ……」
「んっ?」

 でも、いつもはしばらく解放してくれないのに、今日はなぜかすぐにごっちんが離れた。
 そのまま怪訝な顔をして、自分の唇を触っている。

「ごっちん……?」
「ミキティ……」

 ごっちんは何かを確かめるように、自分の唇を触っていた指で、今度はアタシの唇をなぞる。
 そしてアタシの顔をジーッと覗いてくる。

「ミキティ、唇ガサガサ……」
「へっ?」

 あっ、そういえば……

「あ〜……昨日ちょっとリップクリームきらしちゃって……」
「まさかそのままで寝たの!?」
「う、うん……」

 ごっちんは盛大な溜め息をついて頭を抱えた。

「ミキティ! 一応女の子なんだからもうちょっといろいろ気を使ってよ!」
「うぅ、わかってるけど……」
「まったくしょうがないなぁ、今はごとーの貸してあげるから」

 ごっちんはベッドから飛び降りると、置いてあったバッグの中からリップクリームの容器をとりだして戻ってきた。
 ピンクの容器に貼られたラベルには桃の絵が描かれている。

「見て見て! ピーチ味のリップクリームなんだよ!」
「へぇ〜、おいしそうだね。ありがと、借りるね」

 でもリップクリームに伸ばした手は空を掴んだ。

「あれっ?」

 リップクリームの容器を持ったまま、ごっちんはニコッと笑った。
 なんか、嫌な予感が、する……。

「ごとーがつけてあげる!」

 やっぱり……そうくると思った……。
 ごっちんは新しいオモチャを手に入れた子供みたいに爛々と瞳を輝かせていて。
 こんな時は何をしても無駄なので、アタシは大人しくごっちんに従う。

 ごっちんは容器の蓋を開けると、右手の薬指でクリームをすくい取った。
 そっと唇を突き出すけど、まだアタシは考えが甘かったみたいで。
 ごっちんはすくい取ったクリームを、そのまま自分の唇に塗った。

「え゛っ……?」
「んふっ!」

 本能が危険を察知し、ごっちんから離れようとしたけど、その前にごっちんの手がアタシを捕まえた。
 アタシはそのままごっちんに抱き寄せられ、強引に唇が重なった。
 ほんのりとしたピーチ味が唇に触れる。
 逃げられないようにアタシをきつく抱きしめたあと、ごっちんはさらにキスを激しくしていった。

「むっ……!」

 啄むように、なぞるように、あるいは貪るように、二つの唇が絡み合う。
 唇全体に広がっていくピーチ味と、ごっちんの与える快感に思考が浸食されていく。

 散々アタシの唇を味わったあと、ごっちんはさらなる獲物を求めてアタシの口内に侵入してきた。
 ごっちんの舌がアタシの舌を弄びつつ、口内を暴れる。
 アタシはもう全面降伏の状態で、ごっちんのされるがまま。
 しばらくしたあと今日二度目のキスは透明な糸を残してようやく終わった。
 でも身体に力が入らなくて、アタシはごっちんにもたれかかる。

「ごっちん、舌入れる必要はなかったよね……?」
「あはっ、サービスサービス!」
「全然サービスになってないんだけど……」

 アタシを抱きかかえたごっちんが、今度は薬指でアタシの唇をなぞる。
 キスとはまた違った感触が、くすぐったいというか、こそばゆいというか。
 まだらだったリップクリームがしっとりと唇に乗せられていく。

「んふっ、できた! 可愛くなったよ!」
「ありがと、ごっちん」

 いい加減ごっちんの胸から離れるけど、ごっちんも完全には解放してくれなくて。
 アタシの身体を捕まえて、顔を接近させてくる。

「ねぇ、も一回していい?」

 返事の代わりにアタシはちょっとだけ唇を突き出して誘う。
 ダメって言ってもするくせに。
 ごっちんは満足そうに微笑んで、そっと最後の距離をつめた。

 唇に再び触れるピーチ味。
 今度はきっとごっちんも同じ味を感じているはず……。






あとがき

というわけで、久々のごまみきでした。
今回はごまみきにしてはそんなにエロくなく、むしろ甘々全開って感じで。
えっ? ごまみきだったらディープキスくらい普通でしょ?(激マテ
そんなわけで、大変遅れましたがミキティ誕生日おめでとう!(遅れすぎ

川VvV从<戻るよ