夢枕
眠い……。
ね…む…い……。
今日は地方でコンサート。
そのコンサートも無事に終わったけど、ホテルに向かうバスのなかであたしは強烈な眠気に襲われていた。
気を抜くと、すぐにまぶたが落ちそうになる。
「れいな眠そうだねぇ〜。なに〜、また紺野さんと燃えちゃったの〜?」
「……今のれいなには冗談を聞き流してる余裕ないけんね、さゆ?」
「は〜い!」
となりの席に座っているさゆがからかってくる。
絵里に毒されたのか日に日にタチが悪くなっていて、ついでに睨みつけてもあんまり効果がない。
「でもホントに眠そうだねぇ〜? なんかあったの?」
「いや……昨日の夜ちょっとね……」
「紺野さんと?」
「だから違う!!」
紺野さんじゃなくて……実は絵里なんだけどね……。いや、そんな色気のある出来事じゃないんだけど……。
昨日もまた絵里の家に泊まりに行ったんだけど、今度は以前と逆のパターンになっちゃって……。
つまり簡単に言うと、寝ぼけた絵里にさゆと間違えられて襲われかけた、と……。
『ん〜、さ〜ゆ〜……』
『は、離せ、絵里っ!! れいなはさゆじゃなかっ!!』
『もぅ、恥ずかしがり屋だなぁ、さゆは〜。大丈夫だよ〜、優しくするから〜』
『全然優しくないじゃーん!!』
『ほら〜、さゆ〜……』
『うおあっ!! 手ぇ入れてくんなー! 胸触るなっ!!』
危うく絵里に操を奪われるところだったけど、なんとか絵里を突き飛ばし、難を逃れた。
で、絵里はそのまま気絶しちゃったんだけど、あたしは危機感から眠れなくて……。
おかげで今こんな惨状……。
もう絵里の家には泊まりにいかん。それがお互いのためとよ。
「さゆ……あとどれくらいで着く……?」
「ん〜、まだけっこうかかるよ〜?」
「そっか……」
「そんなに眠いなら着くまで少し寝れば? 私の膝かしてあげるよ?」
「う〜……?」
一応後ろをふり返って絵里の様子を確認する。
絵里はすでに、となりの藤本さんに寄っかかって熟睡している。藤本さんも頬杖をついてうとうとしている。
これならとりあえず生命の危険はなさそう。
「……さゆはよく眠くないね?」
「夜更かしはお肌の大敵だからね!」
「あっそ……。まぁいいや、じゃあ……膝かして……」
「うん!」
そのままさゆのふとももの上に倒れる。
おぉ、これは適度な堅さと適度な柔らかさを兼ね備えている、なかなかのふともも。
気持ちいいなぁ〜……。
絵里が気に入っていっつもひざまくらしてもらってるのもちょっとわかる。
おかげであたしはさゆのふとももの上で、すぐに意識を失ってしまった。
☆
しばらくそのまま熟睡してたんだけど、バスがガタンと揺れた拍子に目が覚めてしまった。
運転下手くそ、などと悪態をつきつつ、目をこする。
「さゆ〜……あとどれくらい……?」
「ん〜、30分くらいかなぁ? ちょっと今渋滞にはまっちゃってて」
「あ、そ〜……」
それならもうちょっと寝れるな、と思い、もう一度目を閉じたけど、そこでふと気づく。
今のさゆの声……やけに遠くから聞こえたような?
うっすらと目を開けて、顔を上に向ける。
「……さゆ、いつのまに髪染めたん?」
「え〜、なに言ってんの、れいな〜?」
やっぱり遠くから、正確には後ろのほうからさゆの声が聞こえる。
じゃあ今あたしがひざまくらしてもらってる人は誰だ?
ごしごしと目をこすってみて……飛び起きた。
「こ、こ、紺野さんっ!?」
「あっ、やっと気づいた!」
「えっ? えっ!?」
後ろの席を睨むと、藤本さんが座ってた席にさゆが座っており、絵里がさゆにひざまくらをしてもらいながら、こっちを見て笑っていた。
「さゆのひざまくらは絵里のだも〜ん!!」
ついでにさっき紺野さんが座ってた席を見てみると、藤本さんが座って眠っていた。
コイツ……いつの間にすり替えやがった?
「田中ちゃん、気持ちよかった?」
「あっ、はい、適度の弾力があり……って、そうじゃなくて!」
となりの紺野さんに尋ねられて、思わず素直に答えてしまう。
「す、すいません、ありがとうございました……」
「ううん、いいよ。ところでもうちょっと時間あるけど、まだ寝る?」
「い、いえ、もういいです……」
正確に言えば眠れるわけないです。
眠気も完全に吹っ飛んだし、紺野さんのひざまくらなんてドキドキしてもっと目がさえるに決まってる。
「あ、そう……じゃあさ……」
「えっ?」
ポテッ!
「!?」
予想外の展開に思わず硬直する。
紺野さんがいきなりあたしのふとももの上に倒れてきた。
「えっ? こ、紺野さんっ!?」
「ごめん、田中ちゃん……昨日の夜フリの確認しててあんまり眠れなかったんだ……。ちょっとだけでいいから眠らせて……」
だんだんと声が小さくなっていき、最後には「スゥ〜」という寝息に変わった。
あたしは硬直したまま動けないでいる。
「わ〜、れいな、よかったじゃ〜ん!」
「れーな、チャンスだよ〜! ブチュッとブチュッとしちゃえ〜!」
後ろの席から身を乗り出して、チャチャ入れてきた二人に問答無用で裏拳をくらわす。
痛がってる二人をよそに、あたしは紺野さんの寝顔を見つめる。
紺野さんはすやすやと、安らかに眠っていて。
ホントにブチュッとしちゃおうかなぁ、なんて思いに襲われるけど、なんとか抑える。
はぁ……紺野さん……。
あたしの前でこんな無防備な姿見せないでくださいよ……。
けっこういろいろと大変なんですよ?
サラッと紺野さんの髪を撫でてみると、「んっ……」なんていう色っぽい吐息と共に、ニコッと微笑む。
こういうときに限ってあたし紺野さんと同室なんですよね……。
大丈夫かなぁ……?
あとがき
ちょいと軽めなれなこん。
田中が紺野にひざまくらされてる様子は思い描いてみるといい感じ!
しかしだんだんさゆえりがエスカレートしてきたような……。
まぁそれはそれでおもしろいんですけどね!