今日もけたたましい目覚ましの音で目を覚ました。
 う〜ん、と伸びをして、ベッドの上に起きあがる。
 さて、今日も元気に行きましょう〜!!

 カーテンを開けると朝の透き通った陽光が差し込んでくる。
 実にすがすがしい朝だった。
 私はまだちょっと残る眠気を追い払おうと、顔を洗うために洗面所に行く。
 と……
 鏡に映った自分の顔を見てしばし固まる。

 ……ふ〜む……しっかり起きたと思ったけどどうやら私はまだ眠っているようですね……。
 ここはまだ夢の中のようです……。

 顔は洗わず、ベッドに戻り、布団に潜り込む。
 大きく深呼吸し、しっかりと目を瞑った。


 そして5分後、私はまたベッドの上に起きあがった。
 5分間は我慢したんだけど、どうしても違和感は拭いきれない。

 さっきとは比べものにならないほど重い足取りで、また洗面所へと向かう。
 鏡を覗き込むと、さっきと同じ顔が鏡に映った。


 ……どうして私に猫耳なんかついてるんですか〜っ!?



  猫耳大戦



「おっ? あれっ? あさ美ちゃん!」
「今日はやけに早いんやねぇ〜?」
「あっ、愛ちゃん、麻琴……おはよう……」

 結局今日はさっさと家を出て、いつもより早くテレビ局にやってきた。
 とにかくこの猫耳をなんとか隠さなくちゃいけない。でも家にはいいものがなくて。
 それでテレビ局なら何かあるかおもって探そうとしたんだけど、楽屋に入ったらすでに愛ちゃんと麻琴がいた。
 うぅ……なんでこんな早くにいるんだよぉ……。


「あれっ? あさ美ちゃん、どうしたの、そのバンダナ?」
「あっ……えっと……」

 一応隠すために巻いてきたバンダナを指摘されて、ついつい口ごもってしまう。
 あまり似合ってないのはわかってるけど、家にこんなのしかなかったんだよ〜……。

「ちょ、ちょっと……寝癖が酷くて……」
「ふ〜ん、でもそれなら直してから来ればよかったじゃん。まだかなり時間あるんだし」
「う、うぅ……」

 墓穴掘った、と気づいたけど、その時にはもう遅かった。

「あーしが直してあげるやよ!」
「あっ!」

 いつの間にか私の前まで近づいてきてた愛ちゃんがスポーンと私の頭からバンダナを取った。
 普段からたいして反射神経がいいわけでない私は当然ながら反応できなくて……。
 バンダナの下から猫耳がピョコンと跳びだした。

「……おっ?」
「えっ!?」
「あっ……」

 三人が三人とも綺麗に固まったこの空間で、私の頭の猫耳だけがピョコピョコと動いていた。

「「・・・・・・」」
「あ、あの……愛ちゃん? 麻琴?」
「か「可愛いー!!」
「うわっ!?」

 愛ちゃんが急に飛びついてきて、私は思いっきり後ろに倒れてしまった。
 麻琴は愛ちゃんに先越されてしまったので、その場で立ちつくしておろおろしている。
 こんな時は麻琴がヘタレでよかった……。

「あさ美ちゃん、なんやの、これ〜?」
「うぅ……私が聞きたいよぉ〜……」
「うぉー、動くー! 本物なんだ〜!」

 愛ちゃんがおそるおそるといった手つきで私の頭の猫耳に手を伸ばす。
 触れる瞬間、無意識にピクッと動いた猫耳に驚いて一度離したけど、もう一度手を伸ばして、触れた。
 瞬間ぞくりとした感覚が走り、身体がピクンと跳ね上がる。
 まだ新しい感覚になれてないんだよ〜……。

「へぇ〜、へぇ〜、かわいいー!!」
「ちょ、ちょっと愛ちゃん……あんまり触らないで欲しいんだけど……」
「え〜、いいやん!」
「ひゃあっ!!」

 愛ちゃんが猫耳に頬ずりしてきて、私は思わず悲鳴をあげた。

「やぁ、ちょっと…ひあっ……んあっ!」
「へぇ、これ感じるんだ。おもしろ〜い!」

 愛ちゃんはおもしろがって、私の猫耳を刺激しまくる。
 だ、だからダメだってー! 麻琴も真っ赤になってないで助けてよー!!
 その時天の助けか、はたまた悪魔の再来か、楽屋のドアが開いた。

「おーっす、おはよー!」

 入ってきたのは小さな先輩矢口さん。
 矢口さんは愛ちゃんに押し倒されてる私をめざとく見つけた。

「あ〜、お楽しみのところ邪魔しちゃったかな?」
「ち、違いますぅ! それより助けて下さい〜!!」
「あっ? なんだよ襲われてたのかよ。ダメだよ高橋。やるときはちゃんと合意の上でやらないと」

 いろいろ勘違いしつつも私の上から愛ちゃんをどけて、私を助け起こしてくれる。
 私はそれでようやく起きあがれたんだけど……

「おっ? なに、紺野、今日の収録はまた猫耳なわけ?」
「あっ……」

 猫耳隠すの忘れてた……。
 慌てて手で隠したけどもう後の祭り……。

「あはは、やっぱ紺野は猫耳似合うよなぁ〜!」
「あぅっ!」

 矢口さんが猫耳に触った瞬間、自分でもぴっくりするくらい色っぽい声が出てしまった。
 その証拠に触った矢口さんはそのまま固まってる。
 矢口さんの目がだんだん驚愕に見開いていって……

「はあっ? なにこれ、まさか本物!?」
「はう〜、さ、触らないでくださいっ!!」

 もう一度触れた矢口さんの手に、私の身体と新しい耳は敏感に反応してしまう。
 そんな私を目の前にして、矢口さんはもじもじと身悶え始めた。

「……か……」
「か?」
「か、か、可愛いー!!」
「わーっ!?」

 今度は矢口さんが飛びついてきた。
 なんとかふんばって、今度は倒れないようにする。
 愛ちゃんと麻琴が後ろで揃って「あっ!!」っと短い悲鳴をあげた。
 その短い単語の中に「抜け駆けされたっ!」という響きが存分にこもっている。

「可愛いー! なにこれ、まさしく小動物!!」
「や、矢口さんの方が小さいですー!」

 必死で抵抗しても、耳を撫でられて力が抜けてしまう。
 まだこの刺激に慣れてないんだよ〜……。

「この猫はオイラが拾って帰る!」
「なぁっ!? いくら矢口さんでもそれはゆずらんやざ!!」
「わ、私も欲しいです〜!!」
「私は猫じゃなーいッ!!」

 楽屋の中に私の説得力のない叫びが響き渡ったとき……
 この状況でも大変なのに、さらに第四、第五の小悪魔が現れた……。


「おはよーございまーす!! おぉ、なんか楽しそうですねー!!」
「ののとあいぼんもまぜるのれす!!」
「うわぁっ!?」

 のんちゃんと加護ちゃんも飛びついてきて、矢口さんたちは吹き飛ばされた。
 さすがにこの二人は受けとめられず、私はまた床に倒れ込む。
 ていうか重い、重い〜!!

「あっ! 紺ちゃんなにこれ〜!!」
「うわっ、可愛い〜!! 動くよ〜!!」
「いやぁ、ちょっと! うっ…あうっ……」

 のんちゃんと加護ちゃんの下敷きにされ、私はジタバタともがくけど……
 背中に乗られて耳をいじられると、どうしても力が抜けてしまう……。
 そしてさらに私の受難は続く……。


「あははっ、なにこれ紺ちゃん、ありえないんだけど!」
「キャー、可愛いー!!」
「これ持って帰っていい?」
「は、離してくださーい!!」

 次に楽屋にやってきた、藤本さん、石川さん、吉澤さんにも、結局私は囚われてしまって……。
 三人に羽交い締めにされて私はジタバタ暴れることも許されない。

 ていうか藤本さん、引っぱらないで下さい! 痛いですよ〜!
 い、石川さん……息吹きかけないで下さい……。普通に感じちゃうんですからぁ……。
 吉澤さんっ! どこから持ってきたんですか、その首輪っ?!


『おはようございまーす!』

 そのとき新たな一団が楽屋に入ってきた。
 なんとかそっちを見てみると、入ってきたのは里沙ちゃんと、れいな、亀子、シゲさんの、いわゆる新垣塾の面々。
 みんなと目が合い、そして綺麗に四人とも固まった。

 「うわっ? あさ美ちゃん、それ本物?」と割と冷静な里沙ちゃん。
 「可愛い〜! 私もつけたらもっと可愛くなるかな?」とさっそく自分の猫耳姿を思い描いているシゲさん。
 「絵里の方が可愛いもん!」とすぐに対抗する亀子。
 そして完全に固まってるれいな……だったんだけど……

「……ポンちゃーんッ!!」
「!?」

 突如れいなが奇声を発して私のほうに駆けよってきた。
 そのままの勢いで私に群がってた三人を弾き飛ばし、私に抱きついてくる。

「ハァ、ハァ……ポンちゃん、この猫耳って本物ですか!?」
「そ、そうなんだけど……」

 な、なんでそんなに息が荒いの……? ついでに目も怖いし……。
 それとできれば私の上からどいて欲しいんだけど……。

 れいなは私の猫耳をジーッと見てからおそるおそる手を伸ばしてきた。
 でも触れた瞬間、耳は逃げるようにピクッと動く。

「・・・・・・」
「ぁ、あの……れいな……?」
「……くぅ〜!!」

 「ヤバイッ!」と私の本能が警告を発した。
 なんとかれいなの下から抜け出そうとしたけど……

「……かわいかーっ!!」
「うあっ!!」

 予想どおりれいなが思いっきり抱きついてきた。
 首に手を回して頬ずりしてくる。
 うぅ……今日何回目だろ……。
 ていうか……ちょっと苦しいんだけど……。

「ポンちゃん、この猫耳どうしたんですかっ!?」
「私が知りたいよぉ……」
「大丈夫です! れいながちゃんと拾ってって飼ってあげますから!!」
「な、なんでそうなるの……」

 私に抱きついたままのれいなは全然離れてくれなくて。
 そうこうしているうちに他の人たちも参戦してくる。

「この猫はオイラが最初に見つけたんだからオイラが持って帰るんだよー!!」
「ウチが引き取ります! ちゃんともう首輪まで用意したんですから!!」
「ポンちゃんはれいなのです! 誰にも渡しませんっ!!」

 うぅ……誰か助けてーっ!!


「カオリは思うの。これはきっと紺野の身近にいる人が犯人なんじゃないかって」
「い、飯田さん!? いつからそこに!?」
「というわけでカオリにも触らせて!」
「はうっ!!」

 いつからいたのかわからない飯田さんにまで耳を触られて、私はまた身悶える。
 飯田さんは満足したのかニッコリ笑うと、パンッパンッと手を二回叩いた。
 それだけで他のメンバーはいっせいに動きを止める。

「はいはーい、そろそろ収録が始まるからみんないい加減衣装に着替えてねー! あと紺野はそんなんじゃテレビ出れないからこれかぶっとくよーに!」

 ばふっと深めの帽子をかぶせられる。
 確かにこれだったら耳も見えないけど……いったいこの帽子どうしたんですか……?


 収録前のドタバタとは裏腹に、その後の収録はいつも通り無事に終わった。
 そして私は帽子をかぶったまま、重い足取りで楽屋まで戻っていく。
 それというのもスタジオから出るとき、矢口さんが「こうなったら誰が猫を引き取るか決着付けようぜ!」と言ってたのを聞いちゃったからで……。
 楽屋に戻ればまた争奪戦が始まることは必至……。
 「ハァ……」と一つ溜め息が零れた。


「おっ? 紺野っ!!」

 その時背後から呼び止められた。
 くるっと後ろを向くと、そこにいたのは……

「あっ、後藤さん!!」
「お〜す! 今収録終わったとこ?」
「はい、そうです」

 そんなことを言いながら後藤さんが近づいてくる。
 そしてそのまま私の前に立った。
 なんだろう……なぜか嫌な予感が……。
 すると後藤さんはいきなり私がかぶってる帽子に手を伸ばした。

「っ!?」

 帽子が一瞬で奪われ、解放された猫耳がピコピコと動く。
 私は真っ赤に。対する後藤さんはニッコニコ。

「あはっ! 超可愛いー!!」
「むぐっ! んっ!!」

 もはや抱きしめられるのは慣れたんだけど、あいかわらず耳の感覚は慣れてない……。


「後藤さん、離して下さい〜……」
「ムリっ! だって可愛いんだもん! 予想以上だよ〜!!」
「……えっ?」

 ちょっと引っ掛かった。
 「予想以上」って……

「あの……後藤さん?」
「んあっ? なに?」
「『予想以上』ってことは……私に猫耳がつくことを予想してたってことですか?」
「そうだよ。だってごとーがつけたんだもん」

 まったく否定せず、後藤さんはさらっと言い切った。

「ど、どうやってこんなものを……?」
「えーとねぇ、ごとーの知り合いに二葉ちゃんっていう娘がいてさぁ。その娘がいっつも怪しげな薬やらマシンやら作ってるから、ちょっと頼んで『人間に猫耳が生えてくる薬』ってのを作ってもらったんだよねぇ〜! まぁ、まだ試作品なんだけどさ。で、昨日カオリに頼んで紺野のお弁当に仕込んでもらったんだけど、うまくいったみた〜い!!」

 開いた口がふさがらないってのはこんな状態を言うんだろう。
 何か言おうと思って開けた口は、なにも言語を生み出さずにパクパクと開閉しただけだった。
 そしてその隙に後藤さんの手が瞬時に動き、なにかが私の首に巻き付いた。
 ま、まさかこれって……

「後藤さん、なんですかこれはっ!?」
「首輪〜! よしこから奪ってきた!」
「そんなことさらっと言い切らないで下さい!!」

 慌てて外そうとしたけど、次の瞬間私の身体は宙に浮いていた。
 ううん、正確には後藤さんに抱きかかえられていた。

「ご、後藤さん!? なにするんですか!?」
「拾って帰るの!」
「なっ!?」

 ジタバタと暴れてみても後藤さんは降ろしてくれなくて。
 とりあえず……これだけは言いたかった。

「これはすべて後藤さんの所為ですかッ!!」
「んあっ、そのとーり!」

 普段の私からは想像もできない私の絶叫は、またしても後藤さんにサラッと返された。


 翌朝。目覚めると猫耳はキレイさっぱりなくなっていた。
 よ、よかった……試作品で……。
 ……って、絶対完成品作らせないで下さいよっ、後藤さんッ!!






あとがき

「ハロメン猫化同盟」に投稿したモテ紺小説です。
なんとか全員出せましたね〜!
特別(?)ゲストも登場してますし(笑
完成品、ぜひ作ってください!(爆

川*・-・)ノ<も、戻ります……。