それは一瞬の微かなぬくもりで……
 でも永遠に消えないぬくもりで……

 まるでココロにキスされたように……
 ずっと……ずっと、離れないぬくもり……。



  ぬくもり



「ね〜、里沙ちゃ〜ん」
「ん〜? どうしたの、愛ちゃん?」
「一回だけちゅ〜して〜」
「またっ!? しかもこんなところで!?」
「ええやん、誰も見とらんよ〜! ね〜?」
「しょうがないなぁ……んっ……」
「ん〜……」



 み、見ちゃった……
 だ、だって自動販売機の前の休憩スペースで堂々と……キス……してるんだもん……。
 あわてて隠れたけど……でも、知らない人が来たらどうするつもりなんだろう……。


「そろそろ戻ろうか、里沙ちゃん?」
「うん、そうだね」

 隠れて覗いているとそんな声が聞こえてきた。
 ヤバいっ……!
 休憩スペースから楽屋まではちょうど私がいる方向……。
 ど、どうしよ!?
 あたふたと辺りを見渡したりしてみるけど……

「あれっ? あさ美ちゃ〜ん! 何してんの、こんなトコで?」
「も、もしかして見とった!?」

 あっさりと見つかってしまって、私の体は跳ね上がった。
 ふり向くとそこにいたのはキョトンとした顔の里沙ちゃんと、顔を真っ赤にしている愛ちゃん……。

「ご、ごめんなさーい!!」

 どうしていいのかわからなくて……
 気付いたら気まずさから、その場から走り出していた。


 楽屋の前を通り越し、廊下を曲がって……
 そこでようやく立ち止まった。
 息が切れて顔は熱い。
 でもさっきの愛ちゃんと里沙ちゃんのキスを思い出してもっと熱くなってしまう。

 ……いいなぁ……。



「あれっ? 紺野じゃん。何してんの、こんなとこで?」

 またしても背後から聞こえた声に、私の体はまたビクッと跳ね上がった。
 しかもこの声は……
 ふり向くとそこには、私が密かに想っている後藤さんの姿。

「ご、後藤さん!? 後藤さんこそどうしたんですかっ!?」
「んっ? ごとーの楽屋ここだし。……って紺野、どうしたの!? 顔真っ赤だよ!?」
「えっ? あっ、これはさっき……」
「まさか熱でもあるのっ!?」

 いつもは私よりもちょっと高い位置にある後藤さんの顔が、私と同じ位置まで降りてきて……
 そっと後藤さんの両手が私の頬に伸びてくる。

 ぇえ〜っ!? これってまさか…キ……
 ……と思ったけどくっついたのは唇じゃなくておでこ……。
 でもそれでも私の心臓は飛び跳ねる一方で……。


「ん〜、ちょっと熱いかなぁ?」

 ちょっとしておでこは離れたけど、まだまだ至近距離にある後藤さんの顔。
 どうしても……後藤さんの唇に目がいってしまう……。


「具合悪いならごとーの楽屋で休んでいきなよ。モーニングの楽屋よりは落ち着けると思うよ」
「ええっ!? いいですよ! それに私具合悪くないし……」
「いいからいいから! ごとーまだちょっと暇だしさ!」

 断ろうとしたけどその前に後藤さんは私の手を取って引っぱってる。
 でも確かにあんな場面見ちゃった手前、楽屋に帰って二人とはち合わせるのはちょっと気まずいし……
 そんなこと考えてるあいだに私は後藤さんの楽屋に連れ込まれてしまった。


「そこのソファで横になってていいよ」
「ほ、ホントに私大丈夫ですから!」
「でも顔真っ赤だったし、熱かったし……」
「それは……」

 いくら大丈夫と言っても後藤さんは私のこと心配してくれてるようで……。
 しょうがないのでさっきあったことを話すことにした。


「……というわけなんですよ」
「へぇ〜、高橋と新垣がねぇ……」

 ソファに座って話し終わると後藤さんは意外そうな顔をしていた。
 私は二人から聞いたんだけど、やっぱり意外なのかなぁ?

 後藤さんは指を口許にあて、ちょっと上を向いて何か考えているみたい。
 そんなちょっとした仕草にもドキドキしてしまう。
 すると後藤さんは急に私の方を向いた。
 口が緩やかにカーブを描く。


「ねぇ紺野。それで紺野はキスしたことある?」
「えっ? のんちゃんや加護ちゃんにされたことならありますけど……」
「そういうんじゃなくてさ。マジなキス」
「ぇえっ!? な、ないですよ、そんなこと!」

 急に話が私のことになって焦ってしまう。
 なんだか後藤さんがとっても楽しんでるように見えるんですけど……。
 私の大好きな澄んだ瞳が楽しげに揺れている。


「じゃあさ、ごとーとしてみる?」
「えっ……?」

 一瞬何を言われたのかわからなかった。
 わかったときにはまた後藤さんの顔が目の前にあって……
 離れようとしても後藤さんの手が背中に回っていて離れられない。

「あ、あのぉ! ご、後藤さんっ!?」
「ほら、ちゃんと目、つぶって!」
「ほ、本気ですか、後藤さんっ!?」
「もちろん! なに、ごとーとじゃイヤ?」
「そ、そうじゃないですけど……」

 そうこう言ってるうちにも後藤さんの顔が近づいてくる。
 うわわわっ! 好きな人の顔が目の前にっ!
 やっぱりキレイだなぁ、とか、いろいろ場違いなことを考えてたけど、コツンとおでこがぶつかって、慌てて目を閉じる。


  チュ……

 後藤さんの唇が優しく触れた。
 ただし、唇じゃなくほっぺに。

「ご、後藤さん!?」
「あはは! 期待しちゃったぁ?」
「えっ? えっ!?」

 離れた後藤さんの顔が楽しそうに笑う。
 その時楽屋のドアがノックされた。

「すいません、後藤さん! よろしくお願いします!」
「はぁ〜い!」

 ノックしたのはどうやらスタッフさんらしく、後藤さんは立ち上がって用意し始めた。
 私の横をすり抜けて、楽屋のドアへと歩いていく。
 でも私はまだ固まって動けない。


「じゃあねぇ、紺野! あっ、ほっぺたやぁらかいねぇ〜!!」
「なぁっ!?」
「まぁ、今日のは味見だから! 今度はちゃんとクチビル頂くからぁ〜!!」

 慌ててふり向いてもすでに後藤さんは外に出てしまっていて。
 私も自分の楽屋に帰ろうとするけど、どうにも体がうまく動かない。
 しょうがないからまたソファに座り直す。

 私をからかっているだけですか? それとも……
 もしかして、私と同じ気持ちなんですか……?

 期待しちゃってもいいですか?


 熱を持ったままのほっぺたの、その中でも特に熱い一点をてしてしと触る。
 それは私のほっぺたの熱さなのか……それとも後藤さんのキスの残り火なのか……。

 いずれにせよこのぬくもりは、当分のあいだ冷めなそう……。






あとがき

後紺祭り一作目!
めずらしくまだデキてないです!
積極的なごっちんと、おたおた紺野。
ごまこんの王道ですね〜!(マテ

川*・-・)ノ<も、戻ります……。