久しぶりに一緒になったオフ。
いつもより少しだけ遅く起きて……
「今日何しようか?」って聞いたら……
「海に行きたい」と彼女が言った。
季節はずれのSeaside
「海? 何でまた?」
「だって今年の夏も行けなかったべさ」
「え〜? なっち、海行ったじゃん! ハワイの!」
「違う〜! ごっちんと一緒に行きたいの!」
そんな可愛いこと言われちゃったら断れるわけない。
それにいくら残暑が厳しくてももうそんなに人もいないだろうし。
たまには季節はずれの海も良いもんかな?
「それじゃ、行こうか、海!」
「うん!!」
そっと手を出すと、ギュッと握り締めてくれる。
あたしたちは手をつないで外へと飛び出した。
☆
電車に乗り、バスを乗り継いで海へ向かう。
9月になったとはいえまだ残暑は厳しく、太陽があたしたちを照らす。
手にじわりと汗が滲んだ。
でも決して手は離さずに、なっちと2人、灼けた道を海へと歩いていく。
そして上り坂を上りきると、あたしの目に辺り一面の青が広がった。
どこからが空で、どこからが海かもわからない、そんな青。
「うっわ〜、やったね! 誰もいないよ〜!!」
なっちはそう言うと、サングラスをはずして砂浜へと走っていった。
あたしも同じようにしてなっちを追いかける。
途中で砂に足をとられそうになったから、履いてきたサンダルを脱いで。
裸の足に砂が気持ちいい。
「ほら〜、ごっちん! ここまでおいで〜!!」
「むぅ、言ったな、なっち〜!!」
なっちより運動神経いいんだからな〜!
あたしはなっちに向かって走り出す。
なっちもあたしに背中を向けて逃げ出すけど、後ろ姿でもなっちの顔が満面の笑顔になってるってわかる。
それくらいなっちは今というこの時間を楽しんでるんだ。
「待て〜、なっち〜!!」
「キャ〜!!」
なっちの背中が眼前に迫っていて、あたしは手を伸ばした。
でもなっちをつかまえようとした瞬間、足が砂に取られて……
「キャッ!!」
「えっ? うわっ!!」
あたしはその場に倒れてしまった。もちろん目の前にいたなっちを巻き込んで。
「いた〜い……」
「ごめん、なっち……って、わっ!?」
目を開けるとなっちが目の前にいて。
あたしはなっちに覆いかぶさるようにして倒れてしまったことに気づく。
顔が急に熱くなってきた。
「ご、ごめん、なっち!」
あわてて体を起こすけど、なっちは嫌な顔一つしてないで満面の笑顔のまま。
なっちの手があたしの首に巻き付いてきて、あたしはなっちに抱き寄せられた。
「な、なっち……?」
顔がどんどん熱くなる。
「エヘヘ、捕まっちゃった」
「なんだよぉ、なっちがごとー捕まえてんじゃん」
「そういえばそうだね。まぁ、どっちでもいいっしょ」
そのあと少しだけそのままでいて。
起き上がってなっちについた砂をそっとはらってやって。
あとはまた追いかけっこをしたり、波打ち際で遊んだりと、あたしたちは誰もいない秋の海を十分楽しんだ。
誰かが確か「秋の海は悲しい気持ちになる」って言ってたと思う。
でも全然そんなことないよ。
だってなっちが一緒だから。
☆
時刻はもう夕暮れ時。
遊び疲れたあたしたちは砂浜に寄り添って座って、水平線に沈んでいく太陽を眺めていた。
聞こえるのは寄せては返す波の音と、なっちの静かな息遣いだけ。
「ねぇ、なっち」
「んっ?」
肩に乗ってるなっちの頭がちょっと動いた。
「何で急に海なの?」
「ん、えーとね……ごっちんと付き合いだしてから……て言うかデビューしてからなんだけど、全然プライベートじゃ海行けなかったじゃん? デビュー前は結構行ってたんだけど」
「あぁ、黄色い帽子に『安倍』って書いて?」
「う、うるさいな……それでこの前ハワイに行って、久しぶりに海に行ったんだけどさ、とっても楽しくって!」
「……そっか……」
「でもさ、そのとき思ったんだよね。ごっちんと一緒だったらもっと楽しかっただろうな、って」
「えっ?」
なっちは「こんなこと言ったらメンバーに怒られちゃうな」と苦笑いでつぶやいた。
「だから海に来たかったんだ。楽しかったっしょ?」
胸に熱いものがこみ上げてきた。
なっちがハワイに行ってるとき、「なっちは楽しんでるんだろうなぁ」とか「ごとーのこと忘れちゃってるよなぁ」とか考えてたのに。
遠い遠い南国の楽園でもなっちはちゃんとあたしのことを想っててくれたんだ。
「なっち……」
「んっ?」
「……すき……」
「えっ?」
思わず零れた言葉は波音にかき消された。
でも言葉は伝わらなかったけど、想いは伝わったみたい。
夕陽に伸びた二人の影がそっと近づいていった。
あとがき
甘々……って感じとはちょっと違うけどなちごまです。
いや、あまえたすぎないごっちんのなちごまも書いてみたくって。
目標は「等身大のなちごま」だったんだけどうまくできてるんだか……。