あなたはとても遠い存在で……
 あたしがどう足掻いても手の届かない存在だと思っていた……。
 あたしはあなたの背中しか見れないでいた……。

 だからあなたの目があたしを見ることも……
 あなたの口があたしの名前を呼ぶことも……
 あなたの手があたしの頬を撫でることも……

 きっとないと決めつけていたあの頃……。



  Sepia Photograph



「ほらほら〜、れーな、行かないの〜?」
「う、うるさいっ! 心の準備がまだ……」
「あっ、キッズに先越されてるよ〜! いいの〜?」
「いいわけなかっ!」
「じゃあほら行ってきなよ〜! ちゃんとキレイに撮ってあげるから〜!!」
「う、うん……」


 カメラを絵里に押しつけ、あたしは一人の先輩に歩み寄る。
 その先輩はとても人気者で、今もキッズのみんなに囲まれてる。

 今は冬のハロプロコンサートの真っ最中。
 このコンサートで安倍さんが卒業で、よりいっそう気合いを入れてステージに望んでるんだけど、あたしたちには仕事がもう一つ。
 それが自分たちで写真を撮って、写真集を作るというもの。
 去年のコンサートでもやったけど、その時にはできなかったことが一つ……。


「あ、あの! 後藤さんっ!!」
「んあっ?」

 勇気を出して呼びかけると、キッズのみんなと写真を撮っていた後藤さんはしっかりとあたしの方を向いてくれた。
 目があった瞬間、ドキッと胸が飛び跳ねた。
 ただ目があっただけ。それなのにこんなにも胸がドキドキする。顔が熱くなる。


「どした〜、田中?」

 キッズの輪をぬけて、後藤さんがあたしのもとへと寄ってくる。
 ボーっと後藤さんに見とれていたけど、ちょっと上から顔を覗き込まれて、やっと我に返る。

「えーと…後藤さん! えーと……今回のコンサートでも写真集作るじゃないですか!」
「あ〜、作るねぇ。ごとーも写真撮らないと」
「そ、それで……もしよければれいなと二人で写真撮ってもらえませんか!?」
「えっ? ごとーと?」

 い、言えた……。
 たぶんあたしの顔は今真っ赤……。
 たいして後藤さんはキョトンとしてたけど、そのあとすぐニコッと笑ってくれる。
 その笑顔にもしっかりと見とれてしまうあたし。

「いいよ、撮ろっ!!」
「いいんですか!?」
「もっちろん! あれ? でもカメラは?」
「あっ、それはすでに絵里に……絵里ー!!」

 即席カメラマンの絵里を呼び寄せる。
 絵里はニコニコと満面過ぎる笑顔で、絶対楽しんでるってモロバレなんだけど、この際それは置いとこう。

「絵里、ちゃんと撮ってよ!」
「もちろ〜ん!!」
「見切れさせたりしたらシメるけんね!」

 絵里にげんじゅ〜うに釘を刺して、あたしは後藤さんのとなりに並ぶ。
 絵里はそのままカメラをかまえたけど、後藤さんが「ちょっと待って」と言って、絵里を止めた。

「えっ? 後藤さん?」
「だってまだポーズとってないじゃん!」
「ポ、ポーズ?」
「うん! あれっ、考えてなかったの?」

 ……考えてなかった……。
 だってあたしは後藤さんと写真一緒に撮ることだけしか考えてなかったし……。
 ていうかポーズって考えるものなん?

「えーと……」
「考えてないならごとーが決めよっか?」
「あっ、じゃあお願いします」
「ふ〜ん、じゃあねぇ〜……」

 後藤さんは口許に指をあてて考えてたみたいだけど、フッと視線をあたしに戻すと、またニコッと笑った。
 そして後藤さんの手があたしのほうに伸びてきて……

  ギュッ!!
「っ!?」


 一瞬なにが起こったかわからなかった。
 気づいたときにはあたしは温かなぬくもりと、甘い香りに包まれていた。
 あたしは後藤さんに抱きしめられていた。

「ご、ご、ご、後藤さんっ!?」
「亀井ー! いいよ、撮ってー!!」
「は〜い!」

 パシャッ、パシャッとフラッシュがたかれる。
 後藤さんはあたしの耳元で、「ほら〜、田中、笑顔にならないと〜!」なんて楽しそうに言ってたけど、あたしは当然笑顔になんてなれなくて。
 さっきとは比べものにならないほど、あたしの心臓はドキドキしてる。


「なに〜? 田中、これじゃ物足りない?」
「ま、まさか、そんな……」
「じゃあさ、こんなのはどう?」

 笑顔の後藤さんはさらに追い打ちをかけてくる。
 あたしの背中に回っていた手があたしの頬に添えられる。
 そして……

  チュッ!!
「っ!!?」


 ほっぺたでもない、唇でもない、曖昧なところに触れた後藤さんの唇。
 絵里が「キャ〜!」なんて叫んで、パシャパシャとシャッターを押しまくってたけど、あたしはそんなこと気にしている余裕なくて。

「ご、後藤さんッツ!?」
「あはっ! ちょっと刺激強すぎたかなぁ〜?」
「ちょっとなんてもんじゃないですよ! 心臓止まるかと思いました!!」

 あたし今日心臓に負担かけすぎだね……。
 絶対寿命何年か縮んだなぁ……。


「でもさすがにあんな写真使えないからね。ふつーの撮っとこうか?」

 今度はちゃんと後藤さんはあたしのとなりにきて、ピースや変顔の写真とかを撮っていると、スタッフさんがやってきて、後藤さんに出番を告げた。

「じゃあちょっと行ってくるねぇ〜!」
「あっ、はいっ! 頑張ってください!!」
「がんばってくださ〜い!」
「お〜!! あっ、田中! キスとハグの写真できたらちょうだいね!」
「なっ!?」

 手をヒラヒラと振って歩いていく後藤さんの後ろ姿は、やっぱりとっても格好良くて。
 後ろ姿にさえ見とれてしまうのと同時に、あの大きくて、それでも遠い背中に絶対に追いついてやる、と思い直した。

 あたしをちゃんと見てくれた。
 あたしの名前を呼んでくれた。
 あたしの頬を撫でて、キスまでしてくれた。


 もう「手の届かない存在」なんて思わない。

 いつか絶対にしっかりとあなたのとなりに並んでみせます!
 そしてあなたをふり向かせてみせます!!


 覚悟しておいてくださいね、後藤さん!




「ほらほら、後藤さん! 見てくださ〜い!!」
「ん〜? どうしたの、れいな〜?」

 後藤さんの背中に抱きつき、写真を見せる。
 後藤さんは手だけ後ろにまわしてあたしの頭を撫でてくれる。
 それが何とも言えず心地良い。

「昔の写真出てきたんですよ! 懐かしいですよねぇ〜!」
「んあっ、なんだよ、色褪せてんじゃん」
「それはずっと飾ってたからです。この時からなんですよ、れいなの気持ちが『憧れ』から『好き』に変わったのって!」
「あはは、れいなのアタックが始まったのもこの時からだよね。まぁ、それで現在に至るんだけど」

 後藤さんがあたしの方を向き、ギューッと正面から抱きしめてくれる。
 あたしは後藤さんの胸に閉じこめられながら、それでも負けじと同じように後藤さんの体を抱きしめる。


 最初は『憧れ』。
 あの時から……『好き』。
 そして今は……

「愛してます、後藤さん……」
「ごとーも愛してるよ、れいな」


 写真はいつか色褪せてしまうけど……

 この気持ちは永遠に色褪せることはない……。






あとがき

世にも珍しいれなごまです!
前にちょこっとサブでは書いたことあるけど、メインでは初挑戦。
一応こんな感じになりました。
「ハロプロタイムズ」でけっこう二人の2ショットがあったので、それをもとに。
なのでちょっと時差がありますがご勘弁。
しかし最近田中ばっかり……(強制終了

( ´ Д `)<戻るよ!