今日も仕事が終わり、あたしは久しぶりになっちの家に来た。
 なっちの部屋に入ろうとしたけど、そこで手が止まった。

 部屋の中から微かに聞こえてくる音色。
 でもこれはなっちがよくかけているCDの音色じゃなく……

 ピアノの音だ……。



  優しいセレナーデ



 思わずその場で立ち止まる。
 部屋に入ろうと思ったけど……やめた。その場に座り込んで、扉にもたれかかる。

 なっちの部屋の中からは、あいかわらずピアノ(正確にはキーボードだけど)の音が聞こえてくる。
 まだまだ演奏はちょっと拙いけど、それでも気持ちがこもっている、なっちらしい優しいメロディー。

 昔見たドラマにこんなシーンあったっけなぁ、なんて思いながら、
 あたしはそのままなっちの演奏に聴き入っていた。



 どれくらいそうしていただろう。
 急になっちの演奏がやんだ。

 どうしたんだろう?
 そう思っていると、ガチャッと背後の扉が開く音がした。
 扉にあたらないように、ササッと避ける。
 顔を出したなっちと思いっきり目があった。

「あっ! やっぱり! 来てたんだね、ごっちん!!」
「えっ?」
「なんかごっちんが近くにいる気がしてさ。入って!」

 なっちはニッコリと微笑んで、あたしを部屋の中に手招きする。
 あたしはまだ目をパチパチしながらもなっちについていく。


「なんでぇ? ごとー少しも音立てなかったよ?」
「ん〜、たぶんね、ごっちんだからわかったんだべさ」

 「えっ?」と聞き返す前に、なっちがあたしの胸の中に埋まっていた。
 なっちの腕が腰に巻き付く。
 ほのかなシャンプーのにおいが鼻筋をくすぐる。

「なんかね、なっちはごっちんだとわかるみたいなんだ。さっきもごっちんがすぐ近くにいるような気がして。最初は気のせいかな、って思ってたんだけど、でもやっぱり近くにいる気がして……」
「なっち……」
「やっぱりさ、なっちとごっちんは心が繋がってるんだよ!」

 腰に回っていた手があたしの頬を包む。
 あたしはなっちにされるがまま。

「逢いたかったよ、ごっちん……」
「ごとーも……」

 なっちが背伸びして、そっと唇が重なる。
 あたしも目を閉じてなっちだけを感じる。
 しばらくそのままでいて、やがてどちらともなく離れた。

「あはは、あっつ〜……」

 唇が離れたとたん、パッと体も離れて。
 なっちは真っ赤になった頬を両手でパタパタと扇いでいて、思わずクスッと笑ってしまう。
 やっぱりなっちはなっちのまま。いつまでたっても変わらない。


「さてと、じゃあ今日はなっちが夕飯作るよ。ごっちん、何食べたい?」
「えっ、ピアノは?」
「ん〜、今日はもういいや」
「え〜! ごとーなっちのピアノ聞きたいよ〜!!」
「そ、そんな……恥ずかしいっしょ! なっちまだ下手だし……」
「お願い〜!!」

 ギューッと抱きついて頼むと、なっちは「わ、わかったべさ!」なんて真っ赤な顔で了承してくれて。
 キーボードの前に座り込んだなっちの横に、あたしもうつ伏せで寝そべる。
 頭だけ起こしてなっちを覗き込むと、なっちは「ワルツみたいだね!」なんて笑って頭を撫でてくれた。
 気持ちよくて、思わず頭をすり寄せると、今度は「それじゃ弾けないっしょ〜!」と怒られた。

「じゃあ……ごっちんだけのために弾くからね。ちゃんと聞いててよ!」
「ハ〜イ!」

 やがてなっちの指が白と黒の鍵盤の上を踊り出す。
 そして紡ぎ出す、甘く、美しいセレナーデ。
 優しい音色が空間を包み込む。
 あたしはうっとりとなっちの音色に聞き入っていた。


 ずっと続くと思われた時間も、なっちが最後の白鍵を叩くと同時に終わる。
 あたしは起きあがってパチパチと拍手をすると、なっちは照れたように頬をかいた。

「よかったよ〜、なっち!!」
「ありがと。まぁこれはごっちんのためのラブソングだからさ……」
「えっ?」
「セレナーデっていうのは……もともと恋人のために弾く曲なんだべさ」

 気づいたらなっちを抱きしめていた。
 だってさ、なっちが可愛くて愛しいんだもん!
 そのまま、今度はあたしからキスをする。

「ご、ごっちん! いきなりはダメだべっ!!」
「あはっ! ピアノのお礼だよ〜!」
「もぅ……」
「ねぇ、なっち! あんこーる、アンコール!」
「ぇえっ!?」

 なっちに抱きついておねだりする。
 なっちは最初困ったような顔してたけど、やがて笑顔になると、またあたしの頭を撫でてくれた。

 キスされたり抱きしめられるのも好きだけど、こうやって頭を撫でられるのも好き。
 ていうか……なっちと一緒にいると、どんなことも「好き」に変わっちゃうんだけどね!


「しょうがないなぁ、もう一曲だけだからね?」
「うんっ!」






あとがき

ギリギリ間に合いました、ごとーの日!
というわけで初心に帰ってなちごまです。
一応「仔犬のワルツ」が決まったときから考えてたネタなんですけど、ようやく小説にできました。
もうこれでもかってくらいに甘く。そして甘えたごっちんで!!
個人的にはなっちがごっちんの頭を撫でてるのが激しく萌えます!(力説
新春スペシャルとか、あとはけっこう前だけどDANCEするのだ! とか!

(●´ー`)<戻るべさ!