「なっち〜、なっち〜!」
「もうちょっと待ってて〜!」
ダイニングから聞こえてくる愛しい恋人の声を背に受け、私は生クリームを絞る。
「まぁだ〜?」
「もう少しだから〜!」
真っ赤なイチゴを乗せて、よし、完成!
特製のクリスマスケーキ。
仕事から帰ってきて作り始めたからもうけっこう遅い時間なんだけど、まぁ、クリスマスイブくらいはね……?
甘いあなたの味
「おまたせ、ごっちん!」
「わ〜、すご〜い!!」
ごっちんの待つダイニングへとケーキを持っていくと、ごっちんは目を輝かせて、もう待ちきれないといった様子。
喜んでくれてよかった。作ったかいがあったべさ。
「待っててね、今切り分けるから」
「は〜い! あっ、でもちょっと待って、その前に」
「んっ、なんだべさ?」
ごっちんは椅子から立ち上がり、トトトっと私のそばまでやってきて。
「ほっぺたに生クリームついてるよ!」
「えっ、嘘! どこ!?」
慌てて手をほっぺたに伸ばすけど、その手は寸前でごっちんに止められた。
「ちょ、ごっちん?」
「ごとーがとったげる!」
「えっ……?」
いきなりごっちんに抱きしめられて。
唇がそっと頬に触れた。
クリームが優しく舐め取られる。
でもクリームを取ったあとも、ごっちんは離れてくれなくて。
「もう……ごっちん……」
「えへへ」
ごっちんは私の目の前でニコッと笑った。
いや、ニヤッとって言ったほうがあってるかな。
「とっても甘かったよ?」
「どっちが? 生クリーム? それともなっち?」
「んふっ! なっち!」
もう片方の頬にもチュッとキスをして、ごっちんはようやく離れた。
可愛いなぁ、ほんとに。
そんなことを考えながら、キッチンから包丁を持ってきて、ケーキを切り分ける。
「はい、ごっちん」
「わ〜い、ありがと。いただきま〜す!!」
ケーキをお皿にとってあげると、ごっちんはすぐにかぶりついた。
まったく、もうちょっとお行儀よく食べるべさ。
「なっち〜、甘くて美味しいよ〜!!」
「ホント? ありがとう!」
私も自分のお皿にケーキを取って、一口食べてみる。
うん、けっこう上手くできたみたい。
結局私もすぐに二口目に手が伸びてしまった。
「なっち、なっち〜!」
「うん?」
ケーキを味わってると、不意にごっちんに呼ばれた。
顔を上げてみると、そこにはごっちんの笑顔。
ついでにごっちんの口の端には生クリームが付いていて。
ははぁん、これはわざとやってるな?
「ごっちん、クリームついてるよ?」
「え〜、ほんとぉ〜?」
わ、すごい棒読み。
ちょっといじわるしたくなってごっちんにティッシュを差し出したけど、ごっちんは「むぅ」と唸ってティッシュを押し返した。
しょうがないなぁ、もう。
私は椅子から立ち上がり、ごっちんの側まで近づいていく。
「ほら、目つぶって」
「んっ」
ごっちんは素直に私の方に顔を向けて目を瞑った。
優しくごっちんの顔を包みこんで、身体を屈める。
そして口づけでそっとクリームを舐め取った。
「んふっ、甘かった?」
「うん、とっても」
顔はそっと離したけど、背中にまわされたごっちんの腕によって身体は接近したまま。
私のすぐ目の前でごっちんの顔が楽しそうに笑う。
「じゃあおかわりあげる〜!」
「へっ、おかわり?」
ごっちんは片手だけ私の背中から離し、指でケーキに乗っている生クリームをすくい上げた。
さらにその指を私の顔の前に持ってきて……
「ちょ、ごっちん!?」
「はい、あ〜ん!」
いや、あ〜ん、じゃなくてね……。
まったく、どこでこんなこと覚えてきたんだべか……。
「なっちぃ……」
ごっちんはちょっと曇った表情で私を見上げてて。
「もう、しょうがないなぁ」
私はいっつもそんなごっちんに勝てない。
うわ、なんかすっごく恥ずかしい……。
ごっちんの手を取って、そっと指を口に含む。
「んっ……」
指先を舐めると、ごっちんが可愛く呻いた。
その瞬間、ちょっと顔が熱くなる。
口の中に甘い味が広がったけど、私はその甘さを味わってるだけの余裕はもうなくて……。
すぐにごっちんの指から口を離してしまった。
でもごっちんのおねだりはここで終わるはずもなく……
「なっち、ごとーも!」
「ぇえっ!?」
まるで餌をねだる雛鳥のように口を突き出すごっちん。
戸惑っていると、ごっちんは勝手になっちの指にクリームを付け、そのままくわえ込んだ。
「あっ、ちょっと……んっ!」
ごっちんの舌が指をなぞる。
クリームはもう付いてないのに、離してくれない。
なんか……変な感じ……。
声が出ちゃいそうなのを必死で堪える。
指が解放されると、私はすぐにごっちんに抱きしめられた。
ごっちんの鼓動がいつもよりも速く感じる。
「なっち……」
「なに……?」
耳元でごっちんが囁く。
「ケーキも美味しいんだけど、今度はなっちが食べたいなぁ?」
私の鼓動もごっちんと同じくらい速くなった気がした。
「だめ?」
「だめって言ったらガマンできるの?」
「……できない」
「しょうがないなぁ」
いったんごっちんから離れて、余ったケーキを冷蔵庫にしまう。
すると待ちかまえていたようにごっちんに抱きかかえられ、私は寝室へと連れて行かれてしまった。
ベッドというテーブルの上に優しく降ろされる。
その上にそっとごっちんが覆い被さってきた。
頬やおでこにキスが落とされる。
「やっぱりなっちの方が甘いなぁ」
「じゃあ食べ過ぎないようにしないと太っちゃうよ?」
「そのぶん運動するから大丈夫」
「ばか……」
一生懸命クリスマスケーキを作ってみたけど、どうやら本当のケーキは私自身だったみたい。
ま、ごっちんが喜んでくれるなら、私はどっちでもいいんだけどね。
さぁ、ごっちん、召し上がれ……。
あとがき
短編としてはけっこう久々ななちごまです。
あんまりクリスマス関係ないような気がしなくもない。
なんとなく今回はなちごまにしては若干エロ気味です。
や、なちごまって案外そういうの少なかったんで、今回は思い切ってやってみました。
なちごまのなっちは「しょうがないなぁ」が口癖になってますねぇ〜。