今日は仕事が予定より早めに終わったので、急に時間が余ってしまった。
なにをしようか迷ったけど、やっぱり一番したいことは……
携帯を取りだし、履歴を開く。
探す必要もないくらい、履歴は一つの名前で埋まっていた。
後藤さんの携帯に電話をかける。
でもそれはいつまでたっても繋がらなかった。
「まだ仕事中かなぁ?」
最近全然逢えなかったから逢いたかったんだけど……しょうがないか……。
私はこれからなにをしようか考えながら、家へと帰った。
逢えない時間
結局特になにもしないまま、もう辺りは薄暗くなってしまった。
雑誌を読んだり、テレビを見たりと、家で適当に時間を潰し、合間に後藤さんに電話してみたけど、やっぱり通じない。
はぁ……今日はもう諦めようかなぁ……。
ピンポーン!
その時家のチャイムが鳴った。
だれだろ?
読んでた雑誌を閉じ、インターホンを取る。
「はい、どちら様ですか?」
『あ〜、紺野〜! オイラだよ、オイラ〜!!』
「えっ……矢口さん?」
『そうそう!!』
「どうしたんですか、いったい?」
『紺野にお届けもの〜! いいから早く開けろよ〜!!』
「あっ、はいっ!」
インターホンの受話器を戻すと、首をかしげつつ玄関に向かう。
矢口さんが私にお届け物って……なんだろう?
ついでに心なしか、矢口さんいつもよりテンションが高めだったような……?
そんなことを考えながら玄関を開ける。
「あのぉ、矢口さ……」
「はろぅ!! 紺野〜!!」
開けたとたん、矢口さんが飛び込んでくる。
やっぱりテンションが高い。ついでに顔が赤い。
もしかして……
「矢口さん……もしかして飲んでます?」
「ん〜、ちょっとねぇ〜」
ぷ〜んと漂ってくるお酒の匂い。
これは”ちょっと”って言うレベルじゃないな……。
まだ明るいうちに……何やってるんですか、いったい……。
「そ、それで矢口さん、お届けものっていうのは?」
「あぁ、そうだ! お〜い、裕子〜、圭ちゃん〜!!」
「えっ? 中澤さんと保田さん?」
また外に出て行った矢口さんに続いて、私も外に顔を出す。
そこには確かに、矢口さんと同じく顔を赤く染めた中澤さんと保田さんがいたんだけど……
それ以上にビックリしたのは、二人がぐったりしている後藤さんを抱えていたこと……。
「ご、後藤さんっ!?」
「あぁ、大丈夫、つぶれてるだけやから」
「どっかの誰かさんが飲ませまくるから……」
中澤さんはへらへら〜っと笑って、保田さんは呆れて家の中に後藤さんを運び込んでいる。
「や、矢口さん……どうしたんですか!?」
「いや〜、一緒に飲んでたんだけどつぶれちゃったんだよねぇ〜、ごっつぁん……」
「だ、だからってなんで私の家に……?」
「ごっつぁんちに届けるよりこっちのほうが近いからさぁ。このあと松浦の家も行かなくちゃいけないんだよねぇ〜」
「えっ?」
もう一度外を見てみると、後藤さんと同じようにつぶれている藤本さんの姿が……。
私、二十歳になっても絶対この三人とは飲みません……。
「それじゃ、紺野、あとよろしくね〜!!」
「えっ?」
「あっ、それとこれ! 一応ごっつぁんが家から持ってきてくれたものだからさ!」
「な、なんですか、これっ!?」
矢口さんが私に手渡してきたのは、『鬼殺し』と書かれてる酒瓶だった。
まだ中身が半分くらい残っている。
突き返そうと思ったけど、中澤さんと保田さんは、つぶれている後藤さんを私のベッドに寝かせると、今度は藤本さんを抱えてさっさと退散してしまったし、矢口さんも私が引き留めるまもなく、さっさと二人のあとを追って行ってしまった。
うぅ〜、確かに後藤さんには逢いたかったけど……こんなふうには逢いたくなかったなぁ……。
☆
「後藤さん、後藤さん!!」
「……ん〜?」
仕方なく酒瓶を抱えて戻った私は、後藤さんのとなりに座り、体を少し揺する。
すると後藤さんは気がついたようで、ベッドの上に起きあがった。
ボーっとした目が私の方を向くと、その顔がすぐに笑顔になる。
「あ〜、紺野だ〜!!」
「わわっ!?」
後藤さんはそのまま私に抱きついてきた。
思わず酒瓶を落としそうになって、慌てて持ち直す。
「ん〜、紺野〜……逢いたかったヨ〜……」
「ご、後藤さん!」
抱きしめられながら耳元でそんなことを言われて、一瞬で顔が熱くなる。
酔っているせいか、なんかやけに幼い感じがする。
こんな後藤さんも……可愛くていいかも。
「ん〜、紺野〜。……おっ! なんだ、気が利くなぁ!」
そう言うと後藤さんは私の手から酒瓶を奪った。
慌てて私も奪い返す。
「なんだよぉ〜、飲んでいいんじゃないのぉ〜?」
「だ、ダメに決まってるじゃないですか! まだ未成年なんですよ!!」
「大丈夫だヨ〜、ちょっとくらい」
「もうすでに"ちょっと"じゃ済んでません!!」
私の手から酒瓶を再び奪おうとしてくる後藤さんの手をなんとかかわす。
うぅ〜……絡み酒〜……。
後藤さんはプクーッとふくれてたけど、それが急に笑顔に変わった。
なんか逆に嫌な予感……。
「わかった! じゃあお酒じゃなくて紺野にする〜!」
「い、意味わからな…って、あっ……」
ちゅっと首筋に後藤さんの唇が触れ、私は短い声を漏らす。
うぅ〜、酔ってても酔ってなくてもヤることはかわらないぃ〜!!
でも……
「……あ、あれっ? 後藤さん……?」
「ん〜?」
「その……お、押し倒さないんですか?」
いつまでたってもなんの衝撃も来ないので、おそるおそる聞いてみる。
でも後藤さんは、「もうちょっとこのままがいい〜」なんて言って、また私の胸元に顔を埋める。
こ、これはこれでやっぱりちょっと恥ずかしいんですけど……。
「……はぁ〜……紺野だぁ〜」
「えっ?」
急に後藤さんがそんなことを言った。
意味がよくわからなくて、赤い顔を下に向けるけど、後藤さんはあいかわらず顔を上げずに続ける。
「最近さぁ〜、全然逢えなかったじゃん?」
「そう……ですね」
「ごとーさぁ……逢えないとき、ずーっと紺野のこと考えててさぁ……。でも考えてたらもっと、もーっと逢いたくなっちゃって……」
「後藤さん……」
「逢いたかったよぉ、紺野……」
そっと後藤さんの髪を撫でる。
でもその時、私の服の胸元が濡れ始めているのに気づいた。
もしかして……泣いてる?
「あの、後藤さん?」
「な、泣いてないよっ!!」
「ま、まだなにも言ってないんですけど……」
後藤さんを抱きしめると、服のシミがだんだんと広がってくる。
前髪をよけて、おでこに一回キスし、そしてそのまま唇を耳元に寄せる。
「……私も、後藤さんに逢いたかったです」
「……ホントに?」
「もちろんですよ! 明日はお互いオフなんで、ずっと一緒にいれますよ」
「……うん……そだね」
後藤さんはようやく顔を上げてくれた。
そのまま軽く唇が重なり、離れたときには後藤さんは笑顔になっていた。
それは私もつられて笑顔になってしまうような、眩しい笑顔。
「……さぁ〜てと……」
後藤さんの笑顔に見とれていると、急に後藤さんの姿が視界から消えた。
代わりに視界に映ったのは部屋の天井で、でもすぐに後藤さんの顔も映り込んでくる。
「えっ? えぇっ!? ご、後藤さんっ!?」
「なによ〜、紺野、押し倒して欲しかったんでしょ〜?」
「だ、誰もそんなこと言ってないで……」
「ん〜、匂いとかぬくもりとかだけじゃやっぱムリ。紺野の全部が欲しいんだも〜ん!!」
後藤さんはさっさと私の服を脱がしにかかっている。
うぅ……結局こうなるんですかー!?
☆
そして翌日……
「うぅ……紺野〜……」
「はい……」
「頭痛い〜……お水ちょうだい……」
「ハイハイ……」
二日酔いのため、ベッドでうなっている後藤さんのもとに、私はだるい腰を抱えながらお水を持っていく。
やっぱり……こんな後藤さんは……ちょっとイヤです……。
あとがき
後紺祭り二作目!
今回は甘えたごっちんです。ただしアルコール&甘え襲い(笑
ついでにちょこっと弱いごっちんも。