「ふぁ……おはよーございます……」

 あくびをしながらハロモニのスタジオに入る。
 今日はコントの撮影だ。
 この前はパツキンのヅラだったから……今回はいったい何をやらされるんだろう?
 とか何とか思っていたら……

「おはよ〜、れーにゃ〜!!」
「えっ? ぐえっ!!」

 なんか巨大な三毛猫が走ってきて、そのままあたしにフライング・ボディプレスをかましてきやがった。
 何ごとか、と引っぺがしてみてみると……

「なん? 絵里? どうしたの、その格好? コスプレ?」
「なに言ってんの、今日の衣装だよ? れーなのだってちゃんとあるよ」
「……はっ?」



  仔猫のワルツ



「はぁ……」

 ようやく撮影が終わった……。
 なんだか「にゃーん、にゃーん!」ばっかり言ってて疲れた……。
 とりあえずサングラスとつけっ鼻を取り外す。

 なにが疲れたかって、絵里に抱きつくのも精神的にしんどかったけど、それよりもさゆと抱きあうほうが疲れた……。
 抱きあってるあいだ、背中に強烈な殺気が……。
 絵里……「悔しいにゃーん!!」のセリフにはとっても気持ちがこもってたとよ……。


 鼻の次は頭に付いてる猫耳を取り外そうとしたけど……。

「れいな〜!」
「れーにゃ〜!!」

 どこからともなく現れた白猫と三毛猫に両腕をガシッと掴まれる。

「な、なんね? 絵里、さゆ?」
「猫になった私も可愛いよね〜?」
「絵里も可愛いよね〜?」
「はいはい、2人とも可愛いとよ。れいな直視できないけん」

 適当に受け流してさっさと着替えようと思ったけど、2匹はまだ手を離してくれない。
 な、なん? まだなんかあると?

「れいな、着替えちゃうの〜?」
「だって撮影終わったし……」
「え〜? せっかくれーな似合ってるのに〜!」

 いや、あんま嬉しくないんだけど……
 つーか暑いし動きづらいし、さっさと着替えたい……。
 でも2匹の猫は手を解放してくれない。

「でさ、せっかく似合ってるんだし……」
「せっかく猫なんだし……」
「な、なん?」
「ここはひとつ幼稚園児さんにじゃれついてくるってのはどう?」
「あっ、塾長のほうじゃないよ」
「は?」

 幼稚園児さんって……紺野さん!?
 そうか……そういう魂胆か……。

「な、なんでそうなるとよ!」
「え〜? 紺野さんだってきっと猫れいなのこと可愛いって言ってくれるよ〜!」
「それに見てておもしろいし!」

 絵里、それが本音とね!?
 ていうか……ちょっと待て。

「絵里……」
「んっ?」
「ちょっと裏まで顔かしやがれ!」

 ガシッと絵里の首に手を回してさゆから引き離す。

「もしかして、さゆに言った?」
「なにを?」
「れいなが紺野さん好きなこと」
「あぁ、もうとっくに!」

 ニッコリ笑顔でさらりと肯定しやがりましたね?
 お前はさゆか!? まぁ、好きな人のクセは自然にうつるって言うけど……。
 またほっぺた引っぱってやろうかと思ったけど、猫の衣装のおかげでうまくできない。
 さて、どうしてくれようか……?


「絵里! れいな!」

 絵里をシメあげる方法を模索していると、突然さゆが駆けよってくる。
 絵里と一緒にさゆの方を向くと、さゆと一緒に目に入ってくる淡い水色の衣装姿。

「あっ、お疲れ〜! 猫ちゃんたち〜!」

 最高のタイミングなんだか、最悪のタイミングなんだかわからないけど、幼稚園児さん登場。
 思わずパッと手を離してしまう。

「紺野さん、お疲れ様ニャ〜!!」
「紺野さん〜! どうですか、この衣装?」
「うん、可愛いよ。私はもう猫は遠慮するけど」

 ダダダッと紺野さんに駆けよる絵里&さゆと、2人に引きずられるあたし……。
 かと思うと、いつの間にか2人はあたしの背後に回り、紺野さんの前に押し出される。

「でも一番可愛いのはれいなですよねぇ?」
「えっ?」
「ですよね? 紺野さん!」
「ど、どうしたの、2人とも? 変なものでも食べた?」

 なんか本気で心配してるような紺野さん。
 まぁ、そりゃそうだね。普段は"あぁ"な2人がこんなこと言い出すなんて。
 ていうかあたしとしては嫌な予感しかしないんですけど……。


「とゆーわけでぇ!」
「えっ?」

 絵里とさゆがあたしを押す力が強くなった。

「紺野さんにぃ!」
「は、はい?」
「「可愛い黒猫さんをプレゼント〜!!」」

  ドンッ!!

「わわっ!?」
「わっ!」

 2人に押されたあたしはそのまま紺野さんに突っこんでしまった。
 思わず紺野さんにしがみつくと、身体が前に倒れ込む。
 うわわっ!? 倒れ……


「うぅ〜……痛……」
 ……くない? 逆になんか顔に柔らかい感触が……。

「田中ちゃ〜ん!」

 そして頭の上から聞こえてくる、私の名前を呼ぶ声。
 ちょっと顔を上げてみてみると、そこには困り顔の紺野さんの顔があって。
 てことはこのやぁらかいのって……紺野さんの胸っ!?

「うわわわわっ! す、すいませーん!!」

 慌てて飛び起き、離れる。
 そして後ろを睨むけど、絵里とさゆは影も形もない。
 あいつら〜!!
 追いかけてってシメてやろうと思ったけど、次の瞬間、後ろから伸びてきた手にグイッと引き寄せられた。

「えっ? あっ、こ、紺野さん……?」

 なぜかあたしは紺野さんの腕の中に閉じこめられてしまって……

「田中ちゃん、可愛い〜!!」

 なんて言って頭を撫でてくるもんだから、あたしは一瞬にして顔が熱くなる。


「こ、紺野さん、からかわないでください!」
「えっ? からかってないよ〜。こんな猫いたら私飼いたいなぁ!!」
「ぇえっ!?」

 一瞬ご主人様な紺野さんと、鈴をつけた自分の姿を想像してしまい、ブンブンッと頭を振って幻想を追い出す。
 自分の過多な想像力を呪っていると、紺野さんは「あっ、そうだ!」なんて言って、黄色いバッグの中をゴソゴソとあさりだした。

「な、なんですか、紺野さん?」
「じゃじゃーん! これこれ!!」

 そう言って紺野さんがバッグの中から取りだしたのは……
 しなった細い棒の先に、毛むくじゃらな物体が取り付けられた……
 そう……「猫じゃらし」……。

「……それ、今日の衣装の一部ですか?」
「えーと、そうなのかな? さっき開けてみたら入ってたんだけど……。でも撮影じゃ使わなかったよね? 変なの」

 まさか……。
 白猫と三毛猫の顔が頭に浮かぶ。
 あいつら……ホントにシメてやる。

「田中ちゃん!」
「えっ?」
「はいっ!」

 そして、案の定目の前に現れる猫じゃらし。

「……えっと」
「ほら! 田中ちゃん!!」
「・・・・・・」

 ……やらなきゃダメですかね?
 でも紺野さんは笑顔であたしのほうを見てるし……。

 ……やらなきゃダメなんですかね?
 でも紺野さんは期待しきった目であたしを見てるし……。

「……にゃーん……」

 観念して猫じゃらしに飛びつくと、掴もうとした瞬間、猫じゃらしはサッと逃げた。
 紺野さんはニコニコ笑顔。でもあたしはちょっとカチン。

「にゃー」

 もう一度飛びつくけど、また猫じゃらしは逃げる。

「にゃーっ!!」

 こうなるともうヤケだ。
 絶対捕まえてやるー!!
 逃げる猫じゃらしをとにかく追う。
 まるで本物の猫みたいに。

 ひょいっと猫じゃらしが手前に引かれた。
 チャーンス!!

「にゃー!!」

 ピョンッと飛んで、見事に猫じゃらしを掴む。
 だけどあたしはその時猫じゃらししか見てなくて……

「わわっ!?」
「えっ? うわっ!!」

 バランスを崩したあたしは、またしても紺野さんを巻き込んで一緒に倒れてしまった。
 うぅ……今回はちゃんと痛い……。

「す、すいません、紺野さん……」

 なんとか起きあがろうと、手をついて身体を浮かすと、目の前にある紺野さんの顔。
 その瞬間に身体が固まる。
 こ、こんな至近距離に紺野さんの顔があるなんて……。
 さっきからいい加減……理性がヤバイ……。

 紺野さんはキョトンとした目であたしを見上げてるけど……
 あたしの目は紺野さんの唇に集中……。
 どうしよう……キスしたい……キスしたい……。

「あの……田中ちゃん?」
「紺野さん……」
「ちゃんと捕まえたね!」
「は?」
「猫じゃらし!」

 ピョコンと、あたしと紺野さんの顔のあいだに割り込んでくる猫じゃらし。
 紺野さん……せっかくいいムードだったのに……。

 ピョコピョコっと目の前で振られる猫じゃらし。
 でも遊ばれてるだけじゃおもしろくないので……


「紺野さ〜ん!」
「んっ?」
「さっき言いましたよね?」
「えっ? なにを?」
「ホントにれいなのこと飼ってくださいね〜?」
「……えっ?」
「ご主人様〜!!」

 そのまま紺野さんに抱きついて……
 その柔らかそうなほっぺたに、ちゅっと軽くキス。
 紺野さんのほっぺはやっぱり見た目通り柔らかかったです。


「……えっ? た、田中ちゃん!?」

 そのあと紺野さんは、30秒くらいしてからようやく反応した。
 真っ赤になって飛び起きた紺野さんを見て、あたしはクスッと笑う。

「冗談ですよ、冗談!」
「あっ、そ、そうだよね?」
「ほら、早く立たないと衣装汚れちゃいますよ?」
「う、うん」


 でも紺野さんに飼ってもらえたら……

 ずっと、好きなだけじゃれつき放題なんだけどなぁ。






あとがき

ハロモニ見て思いつきました。
どうやら私はハロモニ+猫だと妄想力を最大限発揮するようです(爆
今回のハロモニはふつーなられなえりネタにするところなんでしょうが、私はひねくれてるんでれなこんで!
まぁとにかく猫れいな万歳!!

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