「やぐちー、このあとご飯行くー?」
「ゴメン! 今日はこのあと約束があるんだ!!」
「そっか、じゃあまた明日ね!」
「おぅ、お疲れー!」

 仕事が終わり、アタシはモーニング娘。の楽屋を飛び出した。
 一応帽子をかぶってテレビ局を出る。つっても変装役にたってんのかな、アタシの場合?

 12月の夜の街はクリスマスムード一色でまだまだ眠らずに光っている。
 その街中をしばらく歩いていくと、そんなムードの象徴ともいえる大きなツリーが見えてきた。



  白い夢



「えーっと……まだ来てないかな?」
 ツリーのある広場を一通り見渡してみるけど恋人の姿はない。
 時計は約束の時間の10分くらい前を指していた。久しぶりに会えるのが嬉しすぎて、約束よりも早く来すぎちゃったみたい。
 ツリーの下に座る。
 待ち人だって今日は仕事だし、もともとかなりの遅刻魔だからね。ゆっくりと待ちましょうか?


 そのままツリーの下で彼女を待った。
 でもいっこうに現れる気配がない。
 アタシと同じように待ち合わせをしていた人も1人、また1人といなくなっていく。

 冷たい風が通りすぎる。
 それはアタシの体温を奪うと同時に、アタシをちょっぴり寂しがりやにしていく。
 マフラーを巻き直し、凍えた手に息を吹きかけた。
 寒いよ……早く暖めてよぉ……。



 その時、アタシの目に映る景色に新たな白が混じった。


「えっ?」
 立ち上がって空を眺める。
 暗い夜空から舞い降りた白い雪。12月のかけがえのない贈り物。
 今年初めての雪。

 そっと手を前に出してみる。
 ひとひらの雪がそっと手のひらに舞い降りて、溶けた。
 そしてそれと同時にアタシの体は温かいぬくもりにつつまれた。


「おまたせ、やぐっつぁん!」
「ごっつぁん……」

 振り向かなくてもわかる、愛しい声とぬくもり。
 それは寂しがり屋になってたアタシの心を一瞬で温めてしまうあなただけの魔法。

「ゴメンねぇ、ちょっと遅れちゃった。待ったでしょ?」
「だ、誰も待ってねぇよ、ごっつぁんのことなんて!」
「アハハ、嘘ばっかし」
 バレバレの嘘だけど、ごっつぁんの前ではどうしてもよけいな意地をはってしまう。
 一番好きなあなたの前だから素直になれない。でもごっつぁんはそんなのお見通しで……

 前にまわされた手に力がこもり、ごっつぁんに抱き寄せられると同時にほっぺに不意のキス。
 凍てつくような空気の中、その場所だけがやけに熱い。

「ご、ごっつぁん! こんな場所でしちゃダメだって!」
「あはっ! わかった、それじゃ家に帰ったらい〜っぱいするよ!」
「・・・・・・」
 見上げたごっつぁんの顔は「ニヤッ!」っていう表現がピッタリはまるような笑顔で。
 対照的にアタシの顔は赤く染まってるはず
 くそぅ、墓穴掘ったな……。


「……雪だねぇ……」
 しばらくしてごっつぁんがポソッと呟いた。アタシもそっと夜空を見上げる。

「今年の初雪はやぐっつぁんと一緒に見れてよかった」
「なんだよそれ? なんか意味あんの?」
「別に。でもなんとなく」
「ごっつぁんは意味わかんないよ」


 でも……アタシもごっつぁんと一緒に初雪見れてよかったよ……。
 理由なんてないけど……なんとなくそう思った。



「そろそろ帰ろっか?」
「そだね」

 そっとごっつぁんの温もりが身体から離れる。
 でも次の瞬間にはアタシの手にそっとごっつぁんの手が重ねられた。
 そして手をつないだまま、アタシたちは東京に降る、初めての雪の中を歩き始めた。
 お互い手は冷たかったけど、それがだんだんと温もりを取り戻していく。



「……ごっつぁん」
「んっ?」
「……来年もさ…一緒に初雪見ようよ」
「……うん!」


 そして願わくば来年も、再来年も、そのまた次の年も……

 こうして2人一緒に歩いていけるように……






あとがき

rinaさんからリクエストをもらい、そして最近マジでハマり気味なI WiSHの曲をちょっともとにして作ったやぐごま小説。
甘々にしようとしたんですけど……甘々か、これは?
しかもけっこう季節はずれ……今10月だよ……。
でも仕方ないんです。だってもとにしたの「December」って曲なんだから(死
しかしなかなか難しいです、やぐごま。
えーっと、rinaさん、こんなんでよかですか?

(〜^◇^)<戻るYO!