「んっ……」

 うっすらと開けた目に、カーテンの隙間から差し込んできた日光が突き刺さる。
 眩しくてまた目を閉じて、少し身体をひねる。
 昨日降っていた雨は、今日はすっかりとあがったみたい。

 今日は日曜日。いつもより遅い目覚め。
 加えて昨日はくたくたになるまで雨の中を走ったから、体力を使い果たしてしまって。
 結果、いつもよりもさらに朝寝坊してしまったらしい。
 あたしはもう一度ゆっくりと瞳を開いた。


「あっ、おはようございます、後藤さん」
「んっ?」

 目の前で揺れる、白くふわふわとした猫耳。
 そして聞こえる柔らかな声。
 目をこしこしとこすってみると、見えてくる紺野の笑顔。
 昨日あたしが拾ってきたCAT。


「ん〜、おやすみ、紺野……」
「わっ!? 後藤さん!?」

 紺野に抱きついて目を閉じると、紺野が一瞬で緊張したのがわかった。

「んあ〜、なんかきもちぃ〜……」
「ご、後藤さん〜!!」

 昨日の夜、ソファーで寝ると言ってた紺野を「どうせ落ちるから」とベッドに引っ張ってきてよかった。
 起きた時に誰かが隣にいるってなんかいいよねぇ〜。



  首輪



「ふぁ〜あ……」

 二度寝しようとも思ったけど、ちょっと紺野が困っていたから結局起きることにした。
 紺野を解放してやり、ベッドからはい出る。

「う〜、まだ眠いなぁ……」

 目をこすりつつも、テキパキと服を着替えていく。

「さてと、朝食作るけど、紺野は何食べたい?」

 紺野の方に振り向く。
 でも紺野は布団にくるまったまま、いまだにベッドの中だった。

「あれ、紺野どうしたの?」
「あ、あの、すいませんけど私の着替え持ってきてもらっていいですか……?」
「あぁ、そっか。ちょっと待ってて」
「すいません……」

 自分の部屋を出て、浴場に向かう。
 そして乾燥機の中から、紺野の服を取りだした。

 CATの服はちょっと特別。
 というのも尻尾が生えてるから、普通の下着やスカートは履けないんであって。
 CAT用の服には、ちゃんと尻尾を出す穴が空いている。
 だからあたしの下着を貸すわけにもいかず、昨夜は一応サイズが大きすぎたTシャツを着といてもらった。
 といってもけっこうギリギリで、必死に見えないようにしている紺野が可愛かったなぁ……。


「はぁい、おまたせ、紺野」
「ありがとうございます」

 紺野の服を抱えて、あたしは自室に戻る。
 紺野は布団から頭だけちょこんと出していて。
 う〜ん、なんかからかいたくなっちゃう。

「着せてあげようか、紺野?」
「ぇえっ!? いいです、自分で着れます!!」
「あはっ、冗談だよ〜! じゃあ着替えたら下りといで、朝ご飯つくっとくから」

 あたしはそのまま自室を出てキッチンへと向かう。
 紺野は真っ赤になって、布団の中にうずくまっていた。
 やっぱり紺野はからかいがいがあるなぁ〜!


「ごちそうさまでした、後藤さん」
「はいはーい」

 ブランチを食べ終わると、もう時間はお昼になっていた。

「じゃあ紺野、出かける準備して」
「えっ? どこか行くんですか?」
「紺野の服を買いに行くの。それとも今夜もTシャツ一枚ですごしたい? ごとーはそれでもいいけど」
「あっ、い、行きます!」

 パタパタッとダイニングを出て部屋にもどる紺野。
 あたしも食器を洗い終わると、出かける準備に取りかかる。
 軽くメイクを整え、髪を上げてリボンで結ぶ。
 そして……


「紺野ー、準備できた?」
「はい、完璧です!」

 ちょっとおめかしをした紺野が2階から下りてきた。

「それじゃ、いこっか」
「はい……あっ……」

 そっと紺野の手を取って、指を絡める。
 紺野の体温が少し上がった気がした。


「へぇ〜、こんなところあるんだ〜」

 やってきたのはデパートのペットショップ。
 その一角には「CAT用品コーナー」なんてコーナーがあった。
 何回か来たことはあったけど、気づかなかったなぁ。
 紺野を連れて、CAT用品コーナーへと入っていく。

「上はふつーのでも大丈夫だから、ここではとりあえず下だね」
「そうですね」
「あっ、紺野、こんなのいいんじゃない?」
「えっ? む、無理ですよ、そんなきわどいの!!」
「あはっ!」

 下着やスカート、あとパジャマなんかを適当に選んでいく。
 あたし的にはもうちょっと冒険したような服も着て欲しいんだけど、やっぱ紺野的にはちょっと無理っぽいかな?


「さてと、こんなもんかな?」

 とりあえず適当なのを何着か見繕ってみる。
 せっかくだからさっきのきわどいのも。いやいや……
 かごに入れかけたけど、しょうがないから戻す。

「紺野ー、なんかいいのあった〜?」
「あっ、はい!」

 別々に選んでいた紺野があたしの元に帰ってきた。
 でもその手には下着とスカートが一着ずつしか持ってなくて。
 まったく、こういうところはやけに律儀なんだから……。

「紺野、もうちょっと欲張っちゃってもいいんだよ?」
「でも……」
「他になんか欲しいものないの?」
「じゃあ……それなら……」

 紺野は少し視線を外して、モジモジしながら言った。

「首輪が欲しいです……」
「えっ? 首輪!?」

 そういやCATは首輪で主従関係を結ぶんだっけ。
 確かあっちに首輪のコーナーもあったなぁ。

「いいよ。んじゃあどれにしようか」
「あっ、ありがとうございます」

 紺野を連れて首輪のコーナーに移動する。
 そこにはたくさんの種類の首輪がディスプレイされていたけど。

「ん〜、なんかあんまりカワイイのないねぇ〜」
「そうですね……」

 シンプルな金属や皮の首輪や、なんか別の用途に使うんじゃないかっていう首輪はあるんだけど、紺野に似合いそうな可愛い首輪はあまりなくて。
 紺野も気に入ったのがなさそう。

「どこか別のところ行く?」
「あっ、でも別に今日じゃなくても……」
「首輪欲しいんでしょ?」
「……はい」

 どうしようかなぁ、と思った時
 急にイイコトを思いついた。
 紺野に見えないようにニヤッと笑う。

 そしてちょっとあたりを見渡す。
 都合がいいことに、見える範囲に人はいない。
 手に持ってたかごを一旦下に置く。


「じゃあこうしよう!」
「はいっ?」

 振り向いた紺野の肩を軽く押さえて、
 身体をそっと屈めて、顔を寄せる。

「えっ、ごと……」

 そして紺野の首筋に唇をあてた。
 そこをちゅーっと一回吸う。

「んっ……!」

 紺野の尻尾がピーンと張った。
 身体も一回跳ね上がる。

「ごごごご後藤さんっ!?」
「あはっ、これでいいや」

 唇を離すと、紺野の首筋の一部が紅く染まっていた。

「首輪の代わり!」
「こ、こんなところで、なんてことを!!」
「えっ、じゃあ部屋で二人っきりだったらしてもよかった?」
「そ、そういうことじゃなくて!!」

 今や顔まで真っ赤にした紺野が抗議するけど、あたしは知らんぷり。

「でもまぁ、キスマークつけたまま外歩くわけにもいかないしね」
「そ、そうですよ、どうするんですかぁ!!」
「こうすんの」

 髪を結んでいたリボンをシュルッとほどく。
 上げてた髪がバサッと落ちた。
 そのままリボンを、キスマークが隠れるように紺野の首に回し、前でキュッと結ぶ。

「あはっ、可愛い!」
「うぅ……」
「ま、首輪の代用ってことで。気に入ってくれた?」
「……はぃ」

 消え入りそうな声だったけど、
 紺野はしっかりと頷いてくれた。



「さて、それじゃ服だけでも買ってこようか」
「そうですね」
「あっ、キスマーク消えちゃったらまたつけてあげるから!」
「え、遠慮します!!」


To be continued...



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