「なつみさま、誕生日おめでとうございます!」
「22才、おめでとうございます!!」

 煌びやかなホールの中、送られる祝いの言葉と拍手に笑顔で会釈を返す。
 纏ったドレスを乱さぬよう優雅に歩き、差し出されたシャンパンを受け取り、口を付ける。

 私は安倍なつみ。
 日本が世界に誇る大企業、安倍グループ総裁の一人娘。
 そして今日は私の22回目の誕生日。



  Birthday



「ふぁ〜、疲れたべさ……」

 誕生パーティも無事に終わり、訪れた来客も帰った。
 私はようやく一つ息をつく。
 誕生日を祝ってくれるのはとてもありがたいことだけど、各界の著名人の前でお嬢様らしく振る舞うのはとにかく肩が凝る。

「お疲れ様です、お嬢様」
「あっ、圭ちゃん!」

 ようやくよそ行きの顔から解放されてぐったりとしていると、そこへメイド長の圭ちゃん、保田圭がやってきた。
 すらっと背筋を伸ばしたまま、私の前で会釈をする。

「それで、隣の部屋にプレゼントがまとめてありますが」
「あ〜、プレゼントね……。まぁ、あとでのんびりと見るべさ……」
「かしこまりました」

 毎年部屋を埋め尽くすくらいの誕生日プレゼントが届くので、全部見るのも大変。
 今年はどんなプレゼントがあるのかなぁ?

「あっ、そういやお父様とお母様からのプレゼントは?」

 お父様とお母様は仕事のため家にほとんどいない。
 でも私の誕生日には必ずプレゼントを贈ってくれる。
 それが嬉しくて、私は必ずお父様とお母様からのプレゼントを一番に見ることにしている。

「え〜と、そうですね……」

 圭ちゃんは珍しく狼狽えたあと、チラッと時計を見た。

「もうすぐ来るはずなんですが……」
「えっ、来るって、まだ届いてないの?」
「あっ、いや、そういうわけではなくて……」

 圭ちゃんはホールの中を見渡したあと、くるっと向きを変えた。

「ちょっと見てきます」
「あっ、それならなっちも一緒に行くべさ」
「そうですか……?」

 圭ちゃんに続いてホールを出る。
 そして長い廊下を進んでいく。
 てっきり圭ちゃんは玄関に行くのかと思っていたけど、それとは逆の客間の方へと進んでいく。
 あれっ? プレゼントが届いてないわけじゃないんだべか?
 圭ちゃんはどんどん廊下を進んでいき、やがてある客間の前で立ち止まった。

「えっ、ここにプレゼントあるの?」
「えぇ、そのはずなんです。パーティが終わり次第来るように言っておいたのですが」
「ふ〜ん?」

 圭ちゃんの言ってることはよくわからなかったけど、
 私はお父様とお母様のプレゼントが待ちきれなくて、客間の扉を開けた。

 その瞬間、甘い匂いが漂ってきた気がした。
 そして客間のベッドの上に横たわっている一つの人影。
 でもその人影には人間にはついてないものがついていた。

「えっ、もしかしてこれが……?」
「はい、旦那様と奥様からの誕生日プレゼントです」

 私はベッドに歩み寄り、その誕生日プレゼントをまじまじと見る。
 見た目はほとんど普通の人間と変わらない。サラサラの髪から飛び出している耳と、スカートから突き出したしっぽ以外。

 遺伝子工学の最先端技術。
 人間と動物の遺伝子を融合させて作り出された新しい生物。通称「CAT」。
 まだまだ一般に流通しているとは言えないけど、それでも友達が飼っているのを見せてもらったことがあった。

 白くて長い耳と、丸くてふわふわのしっぽ。
 どうやらこのコはウサギのCATらしい。
 ベッドの上に横たわり、気持ちよさそうに寝息をたてている。
 可愛い。素直にそう思った。

「待ってるあいだに寝ちゃったんだべか」
「起こしますか?」
「んっ、いいよ」
「そうですか」

 軽く返事をしたあと、圭ちゃんは静かに部屋を出て行った。
 こういうところ、圭ちゃんはすごく気が利く。
 二人っきりになった部屋で、私はそっとベッドに腰掛ける。

「可愛い……」

 思わず手が伸びてしまった。
 そっと髪を梳き、そして耳を撫でる。
 サラサラの髪に、ふわふわの産毛。

「んっ……?」

 でも小さな呻き声とともに、耳がピクッと動いた。
 あっ、起こしちゃったかな……?
 横たわっていた身体がむくっと起きあがり、伏せられていたまぶたがうっすらと開く。
 そしてまぶたのあいだから覗いた、少し赤みがかった瞳が私を捕えた。

「ふぁ……?」

 目をこしこしとこすって、必死に私を見ている。
 でもその目が急に見開かれた。
 それと同時に、耳もピィンと伸びる。

「あ、あれっ!? ご主人様!?」
「フフッ、おはよう。気持ちよさそうに眠ってたね?」
「ぁ、ぅ……」

 彼女は驚いて飛び上がったのと同じくらいの勢いで、シュンとしおれてしまった。
 耳も同じようにうなだれる。
 そんな様子が微笑ましくて、私はまた彼女の頭を撫でた。

「あなたがお父様とお母様からのプレゼント?」
「あっ、はい、後藤真希といいます……」
「後藤真希……。良い名前ね」
「あのっ、いきなり失敗しちゃいましたけど、もう失敗しませんから。だから……捨てないでください……」

 赤い瞳が不安に揺れて私を見つめている。
 そんな仕草がとても愛おしくて、私は真希を抱きしめた。

「あっ、ご主人様……?」
「捨てたりなんかしないよ。だって真希のこと気に入ったもの」

 驚いて固まっている真希から一旦身体を離す。
 そしてそっと真希のおでこに一回口づけた。

「これからよろしくね、真希」
「あっ……」

 真希の表情が驚きから笑顔に変わっていく。
 そして最後には最高の笑顔を咲かせてくれた。

「ご主人様〜!!!」

 私に飛びついてくる真希。
 どうやら根はずいぶんと甘えたみたい。
 だから私もそっと真希を抱きしめてあげた。

 これから楽しくなりそう!!


To be continued...



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