「んっ……?」

 目を覚ました夏の朝。
 今までは広すぎたこのベッドが、なんだか今日はちょっと窮屈。
 それは一緒に寝る人ができたから。

 私にギューッと抱きついている頭に生えている長い耳。
 私のCAT、ごっちんこと後藤真希。
 甘えたで、ちょっぴり寂しがり屋で、私と同じくらいお寝坊さんで、それでいてすっごく可愛い私のペット。

 季節は真夏。
 なのにこうやって抱きしめ合って眠っていても、少しも暑いとは思わない。
 むしろほどよいごっちんの温かさが心地良い。
 サラッと髪を梳くと、なめらかなブラウンの髪が手から流れ落ちた。



  おそろい



「ごっちん、ごっちん?」
「みゅ〜……?」

 こちょこちょっとほっぺたをくすぐると、ごっちんは小さく啼いた。
 そしてようやくうっすらと目を開ける。

「おはよ、ごっちん?」
「……ふぁ?」

 でも私を見ると、ごっちんは慌てて飛び起きた。

「ご、ご主人様、おはようございます……」

 そして仰々しく頭を下げる。
 ちょっと苦笑し、私も起きあがってごっちんと向き合う。

「もう、ごっちん、昨日も言ったでしょ? なっちに対してそんなにかしこまらなくてもいいの!」
「で、でも……」
「ごっちんはなっちのペットなんだから、可愛らしくなっちに甘えてくれればいいのよ」

 ごっちんはしばらく俯いてまごまごしてたけど、やがて私をチラッと上目遣いで見た。

「……い〜の?」
「い〜よ!」
「あはっ、わかった!」
「わっ!?」

 ごっちんは笑顔になって、私に飛びついてきた。
 急のことだったため支えきれなくて、私たちはベッドに逆戻り。
 ごっちんの下敷きにされてしまった。

「なっち〜!」

 ごっちんはそのまま私に頬をすり寄せてくる。
 ちょっとくすぐったくて、でもすごく愛おしくて、ごっちんの髪を撫でる。

「なぁに、ごっちん?」
「あはっ!」


 そのあとはパジャマを着替えて、ご飯を食べて。
 それで一息つくと、ごっちんはまた私にじゃれついてきた。
 私の背後からゴロゴロと抱きついてきて。
 しばらくそのままじゃれあってたんだけど、不意にごっちんの動きが止まった。

「んっ、ごっちん?」
「……なっち」
「どした?」
「わがまま言ってい〜い?」

 わがまま? なんだろ……?

「いいよ。言ってごらん?」

 促すと、ごっちんはモジモジといった様子で口を開いた。

「あんね、欲しいものがあるんだけど……」
「何が欲しいの?」
「……首輪」
「首輪?」

 そういえば、CATは首輪をもらうことで主人と主従関係を結ぶって圭ちゃんが言ってたっけ。
 ごっちんが私と主従関係を結びたがってることが嬉しくて、私は立ち上がった。

「それじゃ、買い物行こうか?」
「ホント!?」
「うん。あっ、でもその前に身だしなみ整えなくちゃね。おいで!」

 ごっちんの手を取り、鏡台の前に座らせる。
 そして愛用の櫛を手に取り、ごっちんの髪に梳き入れた。
 櫛がサラサラの髪を割いて流れていく。

「んあ〜!」

 ごっちんは気持ちよさそうに目を細めた。
 耳もピコピコと動いている。
 何回か櫛でとかすと、ごっちんの髪はなめらかなストレートヘアになった。

「なっちにもしてあげる!」
「んっ、じゃあしてもらおうかな?」

 ごっちんに櫛を手渡して、場所を交換する。
 ごっちんが丁寧に、私の髪に櫛を這わせる。

 そのあと軽くメイクをし、ごっちんにもメイクをしてあげて、私たちは部屋を出た。
 そして圭ちゃんに車を出してもらい、私たちは買い物へと出発した。


「へぇ〜、こんなところもあったんだねぇ〜」
「すごーい、いっぱいある〜!」

 やってきたのは近くのデパートのペットショップ。
 その一角にはCAT用品のコーナーがあった。
 首輪や、しっぽ用の穴が開いた下着やスカートなんかが並べられている。

「たくさんあるねぇ〜、ごっちん、どれがいい?」
「ん〜とねぇ、ん〜とねぇ!」

 ごっちんは目を輝かせて首輪を見てたけど、その目がチラッと私の方を向いて……。

「その……なっちに選んで欲しいな……」
「えっ?」

 照れたようにはにかんで、ごっちんはそういった。
 ごっちんが可愛くて、私はごっちんの頭を撫でる。

「わかった。じゃあ似合うの選ばないとね!」
「やった〜!」

 首輪を一つ一つ手に取り、ごっちんの首に当てて似合うかどうか確かめる。
 首輪といってもシンプルなものから奇抜なもの、カラフルなものからシックなものまでいろいろある。
 悩んだあげく、結局はシンプルで、白い地にピンクのラインが入った首輪を選んだ。
 ごっちんも気に入ってくれたようで満足そう。
 ついでにごっちん用のスカートやズボンもいくつか買ってペットショップを出る。

「なっち、早く早く!!」
「はいはい」

 ペットショップを出た瞬間に、ごっちんは袋の中から首輪を取り出す。
 そしてモジモジしながら、その首輪を私のほうに突き出す。

「なっち……首輪付けてください……」
「う、うん……」

 ごっちんから首輪を受け取ると、ごっちんはちょっと恥ずかしそうにしながらも、自分の後ろ髪をかき上げる。
 なんか、すっごくドキドキする……。
 それでもなんとかごっちんの正面に立ち、首輪をそっとごっちんの首に回して、前できっちりとはめる。
 ごっちんの首に白い首輪が付けられた。
 私とごっちんの絆の首輪。

「えへへ……」

 ごっちんはちょっと照れたように、でもすごく嬉しそうに首輪をいじる。
 そんなごっちんを見て私はまた頬が緩んでしまう。


「さて、ついでだから他の服も何着か買っていこうか?」
「うんっ!」

 ごっちんの手を引いて、私たちはエスカレーターで上の階へ。
 そして洋服屋に入り、気に入った服を選んでいく。
 ごっちんの服と、ついでに自分の服も。

「ごっちん、選んだかい?」
「あっ、うん……」
「じゃあまとめて買っちゃうからかして?」

 ごっちんが選んだ服を持って、私のところへやってくる。
 そして籠にキャミソールやサマーカーディガンなんかを入れていくけど……

「あとね……」
「んっ?」
「こ、これっ!!」

 ちょっと赤みがかった顔で私に渡したのは、白を基調として作られたオシャレなチョーカー。
 あれっ? でも……?
 私は不思議に思ってごっちんの首を見る。
 そこにはさっきつけてあげた首輪。

「ごっちん、チョーカーも付けたいの?」

 そう訊くとごっちんはすごい勢いで首を横に振った。
 そして消え入りそうな声で続ける。

「それは、なっちに付けてほしぃ……」
「へっ?」

 そこまで言われて私はようやく理解した。
 ごっちん、私にも選んでくれたんだね。
 おそろいがいいんだよね?
 私はにっこり笑ってチョーカーも籠に入れ、レジへと持っていった。

「ありがとうございました〜!」

 店員さんの声に送られて店外へと出る。
 すると今度は私が袋の中からチョーカーを取り出す。

「じゃ、今度はごっちんがなっちに付けて?」

 そう言ってごっちんに突き出すと、ごっちんはちょっと赤くなって、でもにっこりと笑って。
 チョーカーを手に取り、私の首に巻いてくれた。
 その瞬間、絆が深まったのを確かに感じた。


To be continued...



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