「えへへ……」
「ほら〜、ごっちん!」

 首輪を買って帰ってから、ごっちんはずっと首輪をいじってニコニコしてて。
 たまに思い出したように私の首のチョーカーを見て、またニコニコして。
 そんなに嬉しかったんだべか、まったく……。

「ごっちん、ご飯食べないんならなっちがごっちんの分も食べちゃうよ!」
「んあっ! 食べる食べる!!」

 ごっちんは首輪から手を離し、ようやく圭ちゃんが運んでくれた夕食に手を付けた。



  泡の中で



「んあ〜、満腹〜!」

 夕食を平らげたごっちんは、ゴロンとベットに横になる。

「こら〜、食べてすぐ寝ると牛になるよ〜!」
「ごとーはウサギだも〜ん!!」

 私もベッドに腰掛けると、待ってましたとばかりにごっちんは転がってきて、私のふとももに頭をのせる。
 そっと頭を撫でてあげると、ごっちんは「みぅ〜!」と気持ちよさそうに啼いた。

「なっち〜!」
「わっ!」

 ごっちんは私の身体のほうに向きをかえ、ゴロゴロと甘えてくる。
 サラッと髪を梳くと、そこからごっちんの耳が見えた。
 その瞬間、ちょっと思ってた疑問が胸に浮かぶ。

「ねぇ、ごっちん、CATって普通の耳もついてるんだね?」
「んあっ、そうだよ」

 ごっちんはサラッと髪をかいて、耳を見せた。
 それと同時にウサギの耳がピコピコと動く。

「えっとね、音を聞いてるのはこっちの耳でね、ウサギの耳は飾りみたいなもので音は聞こえないの。でもちゃんと神経は通ってるよ」
「なるほどね〜」

 思わずウサギの耳を撫でると、ごっちんが「きゃう!」と飛び上がった。
 あっ、本当に神経通ってるんだ、と思ってたらごっちんは赤い顔をして私を睨んで。

「もぅ〜! いきなりはダメ〜!!」
「わっ!?」

 急に私に飛びついてきたごっちんに、私はベッドの上に押し倒された。
 そのまま今度は体ごと私に乗っかり、ギューッと抱きついてくる。

「ごっちんこそいきなりだべさ」
「ごとーはいいの!」
「そんなこと言っちゃうコはこうだ!」
「ひゃうっ!! もう、なっちーっ!!」
「あははっ!」

 ごっちんを抱きしめたまま起きあがる。
 円らなごっちんの瞳が私を見つめてて、思わず引き寄せられるようにごっちんの頬にキスをした。

「えへへ〜、なっち〜!」
「んふっ、ごっちん!」

 ごっちんの身体を離さないまま、見つめ合って言葉を続ける。

「それじゃぁ、そろそろお風呂入ろっか?」
「ふぇっ、お風呂?」
「うん、一緒に入ろう?」

 そう言うとごっちんはちょっと赤くなって目を泳がせた。

「でも、なっちって専用のお風呂あるんじゃないの……?」
「うん。なっち専用だから、なっちが一緒に入りたいと思った人は入っていいのよ」
「んあっ、ごとー入っていいの?」
「当然でしょ。ペットを洗ってあげるのも飼い主の義務だべさ!」

 ごっちんの身体を離して立ち上がり、ごっちんの手を引く。
 ごっちんは頬を染めながらも、おとなしく私についてきた。
 そして二人で脱衣所に入り込む。

「わ〜、きれいな脱衣所だねぇ〜!」
「まぁ、ここまで豪華にする必要もなかったんだけどね……」

 脱衣所をきょろきょろと見渡しながらも、ごっちんは服を脱いでいく。
 服の下から現れる、綺麗で真っ白な肌。抜群のスタイル。そこに流れる髪。
 私はごっちんに釘付けになっていた。

「みゅ? な、なっち、そんなにじっと見ないでよ……」
「えっ……?」
「むぅ、なっちのえっち……」
「あっ、ご、ごめん!!」

 それでようやく私は我に返り、慌てて目をそらした。
 そしてあたふたと私も服を脱いでいく。
 身体にバスタオルを巻き付け、浴室へと入っていく。
 ごっちんも同じようにして、私のあとに続いた。

「ぉお〜! 広い〜!!」

 浴室に入ったとたん、ごっちんが目を丸くした。

「んふっ、今日は泡も入れてもらったの!」
「すご〜い!!」
「ほら、ごっちん、おいで。洗ってあげる!」
「ふぇ?……ぅん……」

 ごっちんは一瞬でのぼせちゃったかのように赤くなったけど、おとなしく私についてきた。
 シャワーの前の椅子に座らせる。

「じゃあ目つぶってね、ごっちん」
「む〜……」

 シャワーからお湯を出して、温度を調整する。
 耳があるからちょっとぬるめにね。
 そしてごっちんの髪を濡らしていく。
 次はシャンプーを手に取り、そっとごっちんの髪に馴染ませていく。

「みぅ〜……」

 最初は恥ずかしがってたごっちんも、今はなんかとっても気持ちよさそう。
 優しく優しくごっちんの髪を洗っていく。
 そしてトリートメントして、髪を流す。

「ぷあっ!」
「ごっちん、気持ちよかった?」
「うん……」
「じゃ、次は背中流してあげるね」
「ん、じゃあお願い」

 ごっちんは恥ずかしがりながらも、おずおずと巻いていたバスタオルをとった。
 まぁ、ちゃんと前は隠してたけど。
 長い髪を上げ、タオルにボディソープを付けてごっちんの背中を洗っていく。
 白くて綺麗な背中……。

 でも……ごっちんの背中を洗いながらふと思う。
 背中を洗い終わったら、次は……?
 前!? いやいや、それはさすがに……。
 でも「洗ってあげる!」って言っちゃったし……。
 どうしよう……?
 ごっちんの背中が白い泡で包まれたので、私は手を止める。

「ごっちん……?」
「んあっ?」
「その……前も洗って欲しい?」
「ふぇ?」

 こっちを振り向いたごっちんの顔がボンッと火を吹いた。
 私の言った意味がわかったんだろう。
 ごっちんは私の手から泡のついたタオルをひったくって、また正面を向いた。

「いいいいい、いいっ! 前は自分で洗うっ!!」
「あっ、そうだよね……」

 ごっちんはマッハで体を洗い始めた。
 安心したような、残念なような……。
 洗い終わったみたいなので、シャワーで泡を流してあげる。

「それじゃなっち、交代こうたい!」
「へっ?」
「ごとーもなっち洗ってあげる! あっ、でも前以外ね……」
「あっ、ありがとう!」

 ごっちんが椅子を立ったので、かわりに今度は私が椅子に座る。
 ごっちんは私がしたのと同じように、まずはシャワーで私の髪を濡らす。

「なっち、湯加減大丈夫?」
「んっ、大丈夫だよ、ごっちん」
「んあ〜!」

 そしてシャンプーを手に取り、髪を洗ってくれる。
 あ〜、確かに気持ちいい……。
 うっとりとしているあいだに、ごっちんは背中も洗ってくれて。
 手渡されたタオルで前も洗い、身体についた泡を洗い流す。

「さっ、ごっちん、入ろう」

 手を繋いで、泡が溢れた湯船まで歩く。
 ちょっと手を入れてみて、うん、ちょうどいい温度。
 泡の中に身体を埋めていく。

「ほら、ごっちんもおいで!」
「は〜い!」

 促すとごっちんも私の隣に並んだ。

「すご〜い! 湯船も広いねぇ〜!」

 ごっちんはパシャパシャと水面を叩いて遊んだり、泡をすくって飛ばしたり。
 そのうち泳ぎ出すんじゃないかっていう勢い。
 一通り湯船の中で暴れて、ようやくごっちんは私の隣に戻ってきた。

「んあ〜、ホントに広いねぇ、なっち〜!」
「んっ、まぁね」

 確かに二人で入ってもまだまだ十分にスペースがあまってる。
 ゆったり全身を伸ばすことができるのはいいんだけど、一人で入ってるとなんか落ち着かないときもあった。
 それに……

「でも、もうちょっと狭かったほうがよかったかなぁ?」
「えっ、どして?」

 ごっちんの方を見ると、ごっちんもキョトンとした表情で私のほうを見ていて。
 そんなふうに見られると言いづらいんだけどなぁ……。


「だって、狭かったらもっとごっちんとくっつけるじゃん」
「……あはっ!」

 そういうと、ごっちんは微笑んで私の肩にコツンと頭をのせた。

「くっついてもいいよぉ〜!」
「ごっちんがくっつきたいんじゃないの〜?」
「それもある〜!」

 ごっちんの肩をそっと抱き寄せる。
 すると私の頬に何かがチュッと触れた。
 ごっちんの方を見てみると、ごっちんが照れたようにはにかんでいた。

「なっち〜!」

 ごっちんはギューッと私にしがみついてきて。
 だから私もそっとごっちんを包みこんであげる。

 泡のような、ふわふわとした優しい時間。
 どうか、いつまでも消えないで。


To be continued...



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