「なっち〜っ!」
「わっ、ちょっと、ごっちん!?」
「おやすみのちゅ〜!」
「ぇえっ!?」

 ごっちんが私の家に来てもう2ヶ月が経った。
 季節は10月。そろそろ肌寒くなってくる季節。
 大学も始まり、いつも一緒にはいられなくなった反動からか、一緒にいれるときごっちんはここぞとばかりに甘えてくる。
 しかも、ただ甘えてくるだけではなく、よくこうやってキスをねだってくるようになった。
 今も布団にもぐった私の上に被さって、唇を突き出している。

「なっちぃ〜!」
「わ、わかったべさ……」

 そっとごっちんの頬を包み、顔を引き寄せる。
 そして唇が触れ合った。
 すぐに離そうとしたけど、ごっちんの手が私の顔を押さえ、離すことができない。

 初めてしたときにごっちんは味をしめたようで、そのあともう何回もした。
 でも、何回しても全然慣れない。むしろ、今はさらにドキドキが増しているような気がする。
 どうして……?
 ゆっくりじっくり私の唇を味わったあと、ごっちんはようやく唇を離した。

「んふっ、なっち、おやすみ」
「お、おやすみ、ごっちん……」

 私にしがみついて、ごっちんは瞳を閉じた。
 するとすぐに気持ちよさそうな寝息が聞こえてくる。
 私はまだドキドキが収まらないっていうのに……。

 最近はとにかくドキドキが酷い。
 キスだけじゃなく、ごっちんのさりげない仕草に胸が高鳴ることがある。
 今だってほら、ごっちんがしがみついてるおかげでドキドキが止まらない。

 でも、同じドキドキでもこのドキドキは最初のころとは違ってる気がする。
 キスでのドキドキもあるけど、今のドキドキはなんていうか……その先を期待しているっていうか……

 もっと、したい……

「って! ももも、もっとってなんだべさっ!?」

 慌てて私は考えを頭の中から追い出す。
 ごっちんが「みゅ〜……」と呻いたけど、どうやら起きてはないみたい。

「何考えてるんだべさ、なっちは……。もう寝よう……」

 私はなんとかごっちんを起こさないように、ごっちんを離し、ごっちんに背を向けて目を閉じた。



  Love You



「はぁ〜……」

 そして翌日。
 結局ほとんど眠れなかった私は、研究室の自分のデスクに突っ伏す。
 はぁ、まさかごっちんに欲情しちゃうなんて……。
 そんなのって、許されるんだべか……?

「おいーっす! あれ、なっちだけか」

 突っ伏したまま悩んでいると、部屋の中にヤグチの声が響いた。
 ヤグチは私の隣のデスクに座る。

「あれ、なっちどうしたの、寝不足?」
「ん〜、まぁ、そんなところ。ちょっと考え事してて……」
「ふ〜ん、珍しいこともあるもんだね」
「どういう意味だべさ……」

 むくっと起きあがってヤグチを睨む。
 ヤグチはヒラヒラ〜っと手を振って、私の視線を受け流した。

 そういえば……ヤグチもよっすぃーを飼ってるんだよね。
 このまま悩んでいたって、解決なんかしそうにないし。
 こんなこと相談するなんてちょっと恥ずかしいけど、ヤグチなら……。

「ねぇ、ヤグチ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「んっ、なに?」

 ヤグチはパソコンに目を向けたまま答えた。
 研究室には私とヤグチ以外誰もいないけど、私はどうしても小声になってしまう。

「あの、ヤグチもよっすぃー飼ってるんだよね?」
「なにを今更。紹介だってしたじゃん?」

 ヤグチが私の方に向いたので、私はヤグチとの距離を詰める。

「えっと、その……」
「なによ、なんか相談あるんじゃないの? ごっちんのこと?」
「そ、そうなんだけど……」

 やっぱり話しづらい……。
 でも、相談するならヤグチは適任だし……

「あの……ヤグチはよっすぃーに……その、ムラムラしちゃったりしたことないべか……?」
「はぁっ!?」
「いや、だから、こう……欲情しちゃったり……。でもCATをそういう目で見ちゃうのっていいんだべか?」

 ヤグチはきれいに固まっていた。
 この沈黙が怖い……。
 これは大笑いされるか、または呆れられるか……。
 でもヤグチの反応は私の予想とは違った。

「いや……」
「あれっ?」

 心なしか、ヤグチの顔が赤くなったような気がした。

「まぁ、いいんじゃないの……? 本人たちがよければ……」

 ヤグチはあさっての方向を見ながら、そんな意見を言う。
 もしかして……

「ヤグチ、まさか……」
「ししし、してねぇよ!」
「まだ何も言ってないべさ……」

 ついでにどもりすぎだし……。

「でもいいんだべか、そーゆーことして……」
「だから本人たち次第でしょ。そーゆー目的持ってCATを飼う人もいるみたいだよ。要望があれば売る前にそーゆー訓練受けさせることもあるらしいし」
「そ、そうなんだべか!?」
「いや、要望があれば、だから! ごっちんはしてないでしょ!」

 あっ、そうだよね……お父様とお母様からの誕生日プレゼントなんだし……。

「まぁ、するにしてもちゃんとCATのことも考えてあげなきゃダメだよ。CATだってちゃんと気持ちを持ってるんだし。CATを奴隷みたいに扱うヤツもいて困るんだよ」
「んっ、わかってるべさ」
「それならいいけどね」

 ヤグチはまたパソコンの方を向いた。
 そう、結局は私とごっちんの問題なんだよね……。


「なっち〜!」
「んっ、ごっちん……」

 家に帰ると、ごっちんはやっぱり思いっ切り甘えてきて。
 夕飯食べてるときも、お風呂に入ってるときも、甘えたは止まらない。
 そしてごっちんはいつものように寝る前にキスを迫ってきたけど……

「ま、待って、ごっちん!」
「む〜!」

 私はなんとかごっちんの口を押しとどめる。
 ごっちんは不満げな声を出した。

「なんでぇ〜? キスするのイヤ?」
「そ、そうじゃなくてね、ごっちん……」

 私の隣に座るように促すと、ごっちんは渋々ながらもベッドに座った。

「あのね、キスするのはイヤじゃないし、むしろなっちだってしたいんだけど……」
「じゃあしようよ〜、なっち〜」
「ちょ、ちょっと、最後まで話聞いて!」

 迫ってくるごっちんをまた止める。
 そしてごっちんの瞳を見つめる。

「でもね、最近なっちはキスしちゃうと……その、もっとしたくなっちゃうの……」
「ふぇ?」

 ごっちんはキョトンとした顔をしてたけど、意味がわかったのだろう、暗い中でもわかるくらいボンッと赤面した。
 たぶん私も同じくらい赤くなってると思う。

「え、えっと……」

 あんまり赤い顔を見られたくなくて、私はごっちんを抱きしめた。

「ごっちんは、イヤ……? イヤなら無理にする気はないから、素直に答えて?」
「えっと、イヤじゃないけど……」

 ごっちんはしばらく迷ったあと、ゆっくり私の背中に手を回した。
 でもその手はまだ迷ってる感じで。

「あの、なっち、それはごとーの躰だけが目当てなの?」
「ううん、違う。ごっちんのすべてが知りたいから、だよ」
「んっ、じゃあ……いいよ」

 抱きあったまま二人してベッドの上に倒れ込む。
 少し照れながら、ゆっくりとキス。
 しばらく唇を味わったあと、ぎこちなくごっちんの舌が入ってきた。
 ちょっと驚きつつも、優しくごっちんの舌を迎え入れる。

 唇を離し、鼻の頭、額にも口付ける。
 さらに上に移動し、ごっちんの耳を唇に挟んだ。

「みゅっ!」

 ごっちんの身体が跳ねる。
 私はさらにごっちんの耳を舐める。

「気持ちいいの、ごっちん?」
「んっ、なんか変な感じ……」

 そっと耳から唇を離し、またごっちんと向き合う。
 ごっちんの目は熱っぽく潤んでいた。

「あの、なっち、ごとー訓練受けてないからどうすればいいからわかんないんだけど……」
「いいよ、これから二人で学んでいこう」
「うんっ!」

 ごっちんは笑顔になって、今度は私の上に覆い被さってきた。

「大好きだよ、なっち……」
「なっちも、ごっちんのこと大好きよ」

 今度はごっちんが私の耳に唇を寄せてきた。
 だから私もそっとごっちんの頭を包んだ。

 「大好き」が「愛してる」に変わるのは、
 もうちょっと先のこと……。


To be continued...



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